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  シエルは適当にキャラクターを選んだ。赤いキャップを被り、赤いシャツに青いオーバーオールを合わせた派手な労働者風の男である。

「彼は、世界一有名な配管工と言われています」

 正確には、ただの大工だったと近年発覚したが、派手な音と共に第一レースがスタートしたシエルには、どうでも良いことだった。否、セバスチャンの声など耳に届いていない。驚くほど高い集中力で、十字キーで車の方向を操り、指先が白くなるまで「 A 」と刻まれたボタンを押し続けている。画面を睨みつけ、障害物を回避。ぶつかってくる緑色のモンスターに舌打ちして、コースアウトを避けるように、慎重にヘアピンカーブを突き進む。

「あの、坊ちゃん」

 シエルの様子に、セバスチャンは思わず声を掛けた。

「うるさいっ!話し掛けるな」

 気が散る、とセバスチャンを一喝して、シエルはファイナルラップに突入する。セバスチャンは、肩を聳やかしてシエルを見詰める。ゲーム機からブレーキングドリフトの音が響く度、シエルの体が右に左に傾く。車がジャンプ台を利用して飛び上がると、シエルの体も伸び上がる。そして、車と共に弾む。セバスチャンは手で口元を隠すと、喉の奥で笑みを噛み潰した。

「クッソ・・・・・」

 堂々のビリでゴールしたシエルは、悪態をついてゲーム機を放り投げた。ゲームと名の付くものに負けたことのないシエルにとって、これは耐え難き屈辱だ。

「坊ちゃん、話しかけても宜しいでしょうか?」

 強張る頬を執事としての気迫で押さえつけて、セバスチャンは無表情でシエルに向き直る。

「・・・・・何だ・・・・・」

 顔中に渋面を貼り付けて、シエルはセバスチャンを睨み付けた。途中でセバスチャンが声を掛けるから、コースアウトしそうになったのだ。アレさえなければ、と思わず歯噛みする。

「畏れながら申し上げます。坊ちゃんが体を左右に振ったところで、ゲーム内の車が曲がるわけではありません」

「っ!」

 セバスチャンの指摘に、シエルの頬が一気に紅潮した。そんなこと、言われなくたって実際にプレイしていたシエルには分かっている。それでも、自然と体が動いてしまうのだ。そう、それはきっとシエルに限った話ではない筈だ。シエルはゲーム機を手に取ると、勢いよく立ち上がりセバスチャンに突きつけた。

「ならば、お前もやってみろ!」

 左右に揺れるセバスチャンを、思いっきり堪能してくれる。セバスチャンは一瞬目を丸くすると、フと笑みを漏らした。シエルからゲーム機を受け取ると、目尻を吊り上げるシエルに目を細める。

「早くやれ!」

「イエス・マイロード」