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 「あぁ、そうだったか・・・・」

 シエルは感情もなく呟いた。記憶を辿れば、時々セバスチャンが気合の入ったケーキを作ることがあったのを思い出す。それが自分の誕生日であったかは、正直覚えていない。それもそのはず、とシエルは自嘲気味に唇の端を吊り上げた。目の前には、確かに美味そうなケーキが置かれている。純白のホールケーキの上に、咲き乱れるホイップクリームで作られた薔薇たち。その上に、飴細工で作られた金色の蝶が舞い遊ぶ。そして、チョコレートムースで作られたミニハットにメッセージプレートが飾られている。人として生きていた頃のシエルなら、その甘い香りに思わず表情を綻ばせただろう。だが、今のシエルにそれはできなかった。悪魔として生きる自分には、そのスイーツの味が分からない。だからこそ、セバスチャンがどれ程腕によりをかけてケーキを作ったところで、記憶にも残らないのだ。

「毎年毎年、よく飽きないものだな」

 シエルは目を細めてセバスチャンを見た。どうしてセバスチャンがここまでデコレーションに気合を入れるのか、シエルは理解できた。味の分からないなら、見た目で印象付けようとしてのことに違いない。無論、成功しているとは言い難いが。それでも、諦めないセバスチャンには同情にも似た感服を覚える。何せ、セバスチャンは永遠にシエルの執事として傍らに控えなければならないのだ。しかも、無報酬だ。どうしても、唇が歪んでしまう。

「長く時を生きると、多少のことで飽きていてはすぐにやることがなくなってしまうのですよ」

 言外にシエルを咎めるような響きに、シエルは思いっきり渋面を浮かべる。悠久の時を生きながら、相変わらず子供じみた仕草の抜けぬシエルに、セバスチャンは小さく首を振った。

「そのようなお顔をされていては、プレゼントをお渡ししにくいですね」

「プレゼントだと?」

 うさん臭い、とシエルはセバスチャンを斜めに見た。セバスチャンがスイーツ以外に誕生日プレゼントを用意するなんて、悪い夢でも見ている気分だ。

「随分なご意見ですね」

 シエルの反応など想定どおりだ、と言わんばかりに、セバスチャンは小さく肩を竦めるに留まった。そして、カートの下段から緑と黒のタータンチェック柄の包装紙でラッピングされた箱を取り出した。決して大きくないそれを、セバスチャンはシエルの前に静かに置いた。

「どうぞ、お開けください」

 セバスチャンの声に応えるように、シエルはかつての自分の瞳の色に似た蒼いリボンを解いた。包装紙を剥がし、箱の蓋を開ける。

「・・・・・何だ、これは?」

 箱に収められていたのは、これまた四角い物だった。シエルはその四角い物体を取り出し、しげしげと観察する。厚さなら、2センチ程度だろうか。シエルの両の掌に乗るサイズで、角は丸く削られて手に馴染みやすくできている。一体何であるか、皆目見当もつかぬまま、二枚貝のような構造の上蓋を持ち上げた。

「何なんだ?」