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シーツの海に沈み込みながら、シエルは掠れた声で呟いた。 「ダルイ・・・・・」 休養を必要としない体にされてから、幾ほどの月日が流れたのだろうか。セバスチャンなら過ぎ去った日々を指折り数えているだろうが、シエルにそんな趣味はない。長い夜が明けるまでの時間すら数えない。否、数えさせて貰えないのが現実だ。 シエルは、火照りが残る身体をもぞもぞと布団に潜り込ませた。いくら休養を必要としない身体になったからと言って、好き勝手に貪られれば疲労を覚えるのは当然のこと。ましてや、時間の頚木から解き放たれた身。セバスチャンのような大男の相手を務めるには、この身体は小さく幼すぎるのだ。 「・・・・・あのバカ・・・・・」 シエルの肌を清めて、さっさと身支度を整えて出て行ったセバスチャンの広い背中を思い出しながら悪態を吐き出すと、シエルは引き摺られるまま瞼を閉じた。
シーツの海に沈み込みながら、シエルは掠れた声で呟いた。 「ダルイ・・・・・」 休養を必要としない体にされてから、幾ほどの月日が流れたのだろうか。セバスチャンなら過ぎ去った日々を指折り数えているだろうが、シエルにそんな趣味はない。長い夜が明けるまでの時間すら数えない。否、数えさせて貰えないのが現実だ。 シエルは、火照りが残る身体をもぞもぞと布団に潜り込ませた。いくら休養を必要としない身体になったからと言って、好き勝手に貪られれば疲労を覚えるのは当然のこと。ましてや、時間の頚木から解き放たれた身。セバスチャンのような大男の相手を務めるには、この身体は小さく幼すぎるのだ。 「・・・・・あのバカ・・・・・」 シエルの肌を清めて、さっさと身支度を整えて出て行ったセバスチャンの広い背中を思い出しながら悪態を吐き出すと、シエルは引き摺られるまま瞼を閉じた。
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結末どころか、文章の細かい表現まで覚えてしまうほど読み込んだ小説のページを弄びながら、シエルは窓の外に視線を向けた。決して晴れることのない空。それは、シエルの心に似ている。変わらない空の色は時間の流れを曖昧にして、常に退屈で停滞しているシエルと何が違うのか。シエルは小さく肩を竦めた。日々、ため息だけが増えていく。 「読書中に失礼致します、坊ちゃん」 ノックの音と共に、セバスチャンは深く頭を下げて入室する。カートを押してシエルの前に立つと、改めて深々と腰を折る。 「坊ちゃん。お誕生日、おめでとうございます」 セバスチャンの声に、シエルはキョトンと首を傾げた。人として生きていない自分に、今更誕生日など何の冗談だろうか。 「お前、何を考えているんだ?」 怪訝そうに眉を歪めるシエルに、セバスチャンはヤレヤレと肩を竦める。 「何を、と申されましても。毎年、こうして坊ちゃんのお誕生日を祝わせて頂いておりますが?」 気の遠くなるほどの永遠を生きると、四百日にも満たぬ過去さえ忘れてしまうのだろうか。否、とセバスチャンは唇を歪める。それは、シエルが日々に無頓着だと言うのもあろうが、セバスチャンが意図的にシエルに時の流れを感じさせない生活を送るよう気をつけているからだ。それでも、シエルが生まれてきた日だけは祝いたいと思っている。それが、一体何に起因する感情かは知らぬが、セバスチャンは自分の感情に従って毎年バースデーケーキを作っていた。
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