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 青い花弁を濡らす血は、その滴を大きくしながらパタパタと散っていく。薔薇の香りに鉄の錆びた匂いが混じり、シエルは軽い目眩を覚えた。
「未だ、手掛かりすら掴めていない。このまま、何も成さずに終わるというのかっ」
 繰り返される悪夢に飛び起きて、暗い部屋の中で膝を抱える。己の不甲斐無さと穢れに苛まれる日々に、シエルは弱い自分を漏らした。誕生日が来るたびに、無力な自分が情けなかった。誕生日か来るから大人に近付くのではない。経験を積まなければ、大人にはなれないのだ。それは、痛い程理解しているつもりだ。しかし、手にした手掛かりは小さ過ぎて、次に繋がるような物ではなかった。骨折り損のくたびれ儲けな毎日に、シエルは疲れていた。だからシエルは焦るのだ。未来への近道などどこにもない。分かっていても、駄々っ子のように求めてしまう。そして、それが不可能だと嘲笑われたような気がして、まだ青いと笑われた気がして、暗い感情に支配されてしまった。
 花弁を濡らす血が、まるでシエルの涙のように見え、セバスチャンは肩を竦めた。青い薔薇を握り締める手にそっと自分の手を添えると、シエルの前に跪いた。
「いいえ、坊ちゃんに不可能なことはございませんよ」
 空いた手でシエルの眼帯を取り去ると、その美しいオッドアイを覗き込んだ。
「人間とは、不思議な生き物ですね。不可能を不可能なまま終わらせようとはしない。例え想像を絶する時間を必要としても、挑んでいく」
 理解に苦しみます、と呟きながら、セバスチャンはシエルの拳をゆっくりと解く。
「長い研究の結果、人間は様々な裏技を発見するのです。そして、その秘術を何代も継承させ、まるで神にでもなったかのように自然の理を書き換え、不可能を可能にしてしまう」
 ゆっくりと開いたシエルの掌は、自身の爪や薔薇の棘のせいで酷く傷ついていた。セバスチャンは手袋を外すと、そっとシエルの傷に指を這わせ、薔薇の棘を探す。痛みに息を飲むシエルに小さく謝罪の言葉を口にしながら、セバスチャンはシエルの血で己の指を汚した。