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「結果として青い薔薇は完成します。そして、その花言葉も『不可能』から『夢かなう』または『神の祝福』へと変更されました」
まるで見てきたように語るセバスチャンを、シエルは不思議そうな目で見つめた。悪魔とは、一体いかなる生き物なのか。
「棘を抜きますので、少し我慢してください」
セバスチャンは指先に引っかかった棘に爪を立てると、シエルに苦痛を与えぬよう一気に抜き去った。
「っ・・・・・うっ・・・・・・」
小さく悲鳴を上げたシエルに、セバスチャンは少しだけ唇の端を歪める。ダラリと力なく溢れた血に舌を這わせ、セバスチャンは目を細めた。
「それに、坊ちゃんには私がお仕えしているのですよ。この瞳の契約書の意味をお忘れですか?」
セバスチャンのザラリと舌の感触に、シエルは思わず手を引いた。頼りなく揺れる燭台の明かりでもハッキリ分かるほど、シエルの頬は朱に染まっている。そんな小さな主の姿に、セバスチャンは満足そうに頬を緩めた。
「人が永遠にも等しい年月を掛けて手に入れる可能への鍵。坊ちゃんは既にお持ちなのです」
ポケットチーフを取り出すと、シエルの傷口に優しく押し付けた。応急処置です、と告げるとセバスチャンはシエルの着替えを再開させる。
「それが、お前だとでも・・・・・・?」
ブラウスのボタンを外すセバスチャンに、シエルは呻くように掠れた声で返した。シエルの言葉に、セバスチャンは淡く微笑み首肯する。
「えぇ。青い薔薇は人間の不可能を打ち破った象徴です。つまり、坊ちゃんもどんな手を使ってでもその望みを叶えるでしょう。さぁ、ご命令を。マイロード」
寝巻きのボタンを留めて、セバスチャンは深々と腰を折った。そんな姿に、シエルは苦笑を浮かべる。
「・・・・リップサービスが過ぎるんじゃないか?」
悪魔に慰められるとは、明日は猛暑日に違いない。調子を取り戻し始めたシエルに、セバスチャンは小さく息を吐き出した。
「リップサービスではありませんよ。坊ちゃんの願いが叶わないと、私もずっとお預けを喰うハメになりますからね」
本気とも冗談ともつかぬセバスチャンの言葉に、シエルは頬を緩めた。なぜだろう、強張っていた心が解れていくようだ。
「では坊ちゃん。薬箱とナイトティーの準備をして参ります」
失礼します、と部屋を出て行くセバスチャンを見送って、シエルは掌を覆う白いポケットチーフを頬に押し当てた。
〜fine〜
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