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「お客様の前で心情を曝すのは、感心致しかねます」
それは、手の内を曝すも同然の行為だ。ただの子供なら許されても、裏社会の秩序を統べるシエルにとって、それは弱みを見せるも同義。死に直結すると言っても過言ではないだろう。
「あぁ、分かっている」
シュルっとリボンタイの解ける音に、シエルはポツリと呟いた。今日ほど、子供っぽい自分に嫌気が差した日はない。神経質になっていたから、なんて言い訳にもならない。だが、とシエルは青い薔薇に手を伸ばした。
「青い薔薇が、僕のイメージだって・・・・・?」
クシャリと微かな音を立てて、薔薇を握り潰した。刹那、チクリと痛みが走った。どうやら、棘があったらしい。赤い血が、青い花弁にパタリと落ちる。
「そう言えば、デザートもお気に召さなかったようでしたね」
セバスチャンが用意したバースデーケーキ第二弾は、白いクリームの上に飴細工で作られたパールブルーの薔薇が飾られていたのだ。劉が嬉しそうに、執事君も同じ意見のようだね、と笑った瞬間、怒りは殺意にまで昇華した。思い出すだけで、腸が煮えくり返る。荒くなる息もそのままに、シエルは更に拳を強く握った。
「・・・・・・・青い薔薇の花言葉・・・・・・」
搾り出すようなシエルの声に、セバスチャンは冷静に応える。
「確か『不可能』でしたか」
薔薇の歴史は古く、古代文明の頃から栽培されてきたと言われており、その間様々な交配や品種改良がなされて来た。しかし、どれほどの人々が情熱を捧げようとも、完全な青い薔薇はできなかった。それは、薔薇自体に青い色素ができないせいだった。それ故、青い薔薇は『不可能』や『あり得ないこと』の代名詞とされているのだ。
なるほど、とセバスチャンは呟いた。ようやくシエルの不機嫌の理由が分かった。そうでなくても、今のシエルはナーバスなのだ。不可能がイメージと言われて、笑ってかわす余裕はない。
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