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「いや、そうかもしれないが。・・・・・劉、コレは何だ!」
 耳障りな劉の声をシャットダウンするように、シエルは花束を劉の鼻先に、さながら剣を突きつけるように差し出した。
「良い香りでしょ?」
 相変わらず話をはぐらかす劉に、シエルは不機嫌そうに眉を跳ね上げた。どうしてもシエルの口から詰問されたいらしい。
「青い薔薇なんて、存在しないハズだ」
 そう、大輪の薔薇は全て青く輝き、誇らしげな香りを湛えていた。そのあまりに見事な様に、セバスチャンでさえ驚きを隠せずにいたのだ。そんな二人の反応が嬉しいのか、劉は上機嫌で口元を歪めた。
「ふふふ、伯爵。中国四千年の歴史を侮ってもらっちゃ困るな」
 人差し指を立てて、チッチッチと横に振ってみせる。
「遂に、我が国は不可能を可能にしたのだよ」
 まるで詐欺師のように大仰な手振りで、劉は祖国の成功を称える。しかし、セバスチャンは少しだけ眉を顰めると、シエルに一言断りを入れて青い薔薇を一輪手に取った。そして薔薇を逆さにすると、茎の切り口に注目する。
「あっ・・・・・・・」
 セバスチャンの行動を咎めるように、劉は声を上げた。しかし、シエル以外の命令に従う謂れはない。セバスチャンは劉の声など気にも止めずに、目を細めた。
「・・・・なるほど、綺麗に染色されていますね」
 セバスチャンの言葉に、劉は額に手を当てて天を仰いだ。
「らぁぁぁ〜うぅぅぅ〜」
 不可能を可能にした、と言うのは相変わらずの口から出任せだった。どうやら、白い薔薇に青く染めた水を吸い上げさせて作った物らしい。
「別に伯爵を騙そうと思って作ったわけじゃないんだよ」
 詰め寄るシエルに、劉は小さく両手を上げ、額に小さな汗をかいて笑う。
「じゃぁ、どういうつもりだ?」
 本気で驚いて損をした挙句、肩透かしを食らったせいでシエルの機嫌は右肩下がりだった。しかも昼寝を邪魔されたことも手伝って、本来なら劉の言い訳も聞かずに放り出してしまいたいところである。しかし、藍猫がいる手前それもできない。ふとシエルは劉を見た。英国紳士であるシエルが、わざわざ訪ねてきた女性を追い返せる訳がないと見越して藍猫を連れて来たのだろうか。シエルの周りは、食えない連中しかいないのか。