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「では、ミルクティーはお部屋にお持ち致します」
 視界の端で頭を垂れるセバスチャンの姿を捉えながら、シエルは一歩を踏み出した。刹那、何の前触れもなくバターンと大きな音を立てて扉が開かれた。
「やぁ〜伯爵!ハッピーバースデーっ!お誕生日おめでとう」
「・・・・・オメデトウ」
 ギョッとして振り返ると、そこには冬の冷たい風を纏って現れた二人の中国人。
「ラ・・・・・劉・・・・・・」
「藍猫様も・・・・・・・」
 呆然とするシエルとセバスチャンに、劉はニコニコと手を振る。そんな劉に倣って、藍猫も無表情のまま手を振って見せた。
「何しに来たんだ?」
 劉がアポなしで訪れることは、決して稀なことではない。むしろ、アポを取って来る方が珍しい。しかし、とシエルは軽く頭を振った。この来訪のタイミングは屋敷の中を伺っていたとしか思えない。確かに、とシエルは少し天を仰いだ。あの叔母と劉が鉢合わせでもしたら、上手い逃げ口上を述べられる自信はない。一応、感謝の念ぐらい抱いてやっても良いだろう。
「いやぁ、藍猫が美味しいケーキを食べたいって言うからね。せっかくなら執事君のスイーツが食べたいじゃない。それに、今日は伯爵のお誕生日だし。執事君のことだから、張り切って豪華なバースデーケーキを作っているだろうし、ご相伴に預かろうと思ってさ」
 遠慮とか悪びれる、という単語は劉の辞書には存在しないらしい。シエルは肩を竦めて見せた。
「まったく、お前らしい発想だな。それで、誕生日のご馳走にありつきに来た割には手ぶらなのか?」
 プレゼントを寄越せ、とまるで子供らしい催促に劉は破顔してみせた。伯爵もまだまだ子供だねぇ、とどこか嬉しそうに呟くと、後ろに控えた藍猫に声を掛ける。
「さぁ、藍猫。伯爵にソレを渡して」
「・・・・・・お誕生日、おめでとう」
 ピクリとも表情を変えずに藍猫が差し出したのは、薔薇の花束だった。
「っ・・・・ぁ・・・・・・・・ぉ」
「やっぱり、花束を貰うならオンナノオコからの方が嬉しいよねぇ?」
 声も出せずにいるシエルに、劉は何を勘違いしたのかクスクスと笑い声を噛み殺している。