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アフタヌーンティーを終え、帰って行く叔母と従姉妹を見送って、シエルは小さくため息を吐き出した。
「お疲れのようですね」
 気遣うようなセバスチャンに、シエルは自嘲の笑みを浮かべて肩を竦めてみせる。
「まぁ、さすがにな・・・・・」
 既に両親を亡くしたシエルを憂いて、叔母のフランシスとエリザベスはシエルの誕生日を祝いに来る慣例になっていた。その気遣いは心の底からありがたいと思っているが、なにぶんフランシス叔母様である。セバスチャン同様完璧を是とし、セバスチャンと違いそれを他人にも望む。それ故、彼女の訪問の際は、粗相のないようにと気を張り詰めざるを得ず、どうしても気疲れしてしまうのだ。
「ディナーまで時間がございますので、少しゆっくりされたら如何ですか?」
 懐中時計をパチンと閉じて、セバスチャンは小さな主に笑い掛けた。シエルの疲れは、侯爵夫人への気疲れだけではない。この時期のシエルはナーバスになっているのだ。
そう、シエルの誕生日は悲劇の始まり。数年前のあの日、シエルの全てが変わってしまったのだ。何者かに両親を奪われ、シエル自身の尊厳も踏みにじられた。誕生日が近づくにつれ、あの屈辱を思い出すのか、それとも未だ復讐を果たせずにいる己の不甲斐無さに苛まれているのか。おそらく昨夜も眠れていない。
「蜂蜜で甘みをつけたロイヤルミルクティーをお持ち致しましょう」
 蜂蜜には疲労回復の効果がある。また、脳の疲れには甘い物が一番だ。
「さっきまで、散々スイーツを食べていたんだがな」
 チラリとシエルはセバスチャンを見上げた。自分の心の底に渦巻く感情さえ、見透かされている。本来なら、誰にも気付かれない筈の澱。百年先をも見通す悪魔を傍に置くのも、中々考え物である。シエルは肩を竦めると、踵を返した。
「・・・・・部屋に戻る」
 悪魔に比べれば、どんな人間も赤子に等しい。己の幼さを見せ付けられる結果になるのも、致し方ないのかもしれない。いや、シエルは自分にそう言い聞かせる。これ以上、心の闇に引き摺られない為に。