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「今日はオフなのかい?ランカちゃん」
すかさず、飲み物は何がいい?と聞ける辺り、筋金入りのフェミニストは違う。
「実は移動中なんだよね。アルト君達の姿が見えたから、少しだけ時間を貰ったの」
だから飲み物はいいや、と笑うランカにナナセがガバァと抱き付いた。話したい事や聞きたい事がたくさんあったのに、ランカの前に全てが消えてしまう。ただ、ランカの存在が嬉しくて、ナナセはひたすら友人を抱き締める。
「・・・・・ナナちゃん、苦しい・・・・・」
感情任せに抱き締められて、ランカはバタバタと手を動かした。柔らかい母性の象徴は、時として凶器と変貌する。男から見れば、これ以上ない幸せな光景なのに。
「それで、何だよ。・・・・・・間接キスって」
どうにかナナセの胸から這い出すことに成功したランカに、アルトはタプンとカップを振った。不満気な仏頂面を浮かべるアルトに、ランカは少しだけ眉根を寄せた。
「え?ミシェル君が口を付けたストローにアルト君も口を付けたから、間接キスだなぁって思っただけだよ」
ランカの言葉に、アルトはストローを見た。確かに、このストローにミシェルの唇が触れた。そして、その直後アルトも口を付けた。それに、とアルトは先程の部室での遣り取りを思い出す。あのペットボトルも、いや、それだけじゃない。ここ最近、ありとあらゆる場面でミハエルと間接キスをしていたことになる。何故だろう、妙に胸が急く。
「でも、男の人同士ってそんなこと気にしないよね。アハハ、ごめんね。変なこと言って」
些細なことだもんね、と微笑うランカにアルトは笑えなかった。
本当に、些細なことなのだろうか。
◆◆◆◆◆
「・・・・・間接キス・・・・・・」
ランカに指摘されて、アルトは混乱していた。唯一のプライベート空間であるベッドの上で、指を折る。
ミハエルが初めてアルトの飲み物に口をつけたのは、いつの頃だろう。今日だけで、三回。そう言えば、食堂で箸に取った焼き魚を食べられたこともあった。
「うあぁぁぁ・・・・・」
アルトは悶絶した。箸ならば、唇が触れるどころの騒ぎではない。舌だって触れていたかもしれない。アルトは真っ赤になりながら、枕に顔を埋めた。意識してしまえば、なんて気恥ずかしい。
何気ない行為が、ラベリングされるだけでこんなにもアルトを苦しめる。
「・・・・・何気ない・・・・・」
そう、ミハエルにとっては瑣末な行動なのだ。間接キスどころか、舌が絡み合う大人のキスだって知り尽くしているに違いない。アルトはシーツに爪を立てた。何故だろう、酷く胸が軋む。
「あぁぁ!」
アルトは勢いよく起き上がった。
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