ミハエルは眼鏡を押し上げて、ルカの存在を確認する。ルカの隣には、これまた見知った女生徒の姿。遠目からでも、ルカが舞い上がっているのが分かる。
「あぁ、ナナセか」
 他人の心の機微に疎いアルトでも、ルカのナナセへ対する気持ちは分かる。気付かないのは、当のナナセぐらいだろう。
アルトとミハエルは肩を竦めると、ルカ達の元に歩いていった。
「やぁ、ナナセちゃん。今帰り?」
 ミハエルの登場に、一瞬ルカが息を飲んだ。二人っきりの時間を邪魔されたくない反面、これ以上必死に間を繋がなくて良いという事実に、どうリアクションすべきか迷うのだろう。
「ミシェル君!早乙女君」
 パァっとナナセの表情が明るくなった。ミハエルが紡ぐ、それは魔法と言って良い。その瞬間、アルトでさえルカを不憫に思う。
「あ〜・・・・・随分と遅いんじゃないか?」
 うっとりとミハエルを見つめるナナセに、アルトは控えめに声を掛けた。ミハエルに非はないとしても、何とも微妙な空気が漂っているのは事実だ。正直、いたたまれない。
「うん、課題に少し手間取っちゃって」
 眉根を寄せるナナセに、ミハエルは至って自然に笑いかける。
「ナナセちゃん、時間ある?良かったらお茶していかない?立ち話もナンだし」
 さすが、女性に声を掛けないのは失礼だ、と嘯くだけある。ミハエルの柔らかい笑顔と優しい声で囁かれて、着いて行かない女性がいるだろうか。
「いつものカフェテラスで良いかな?」
コクコクと痛いほど首を振るナナセの姿を見ながら、あぁ、とアルトは例外を思いついた。あの生まれた時から女王様然としていたような、銀河の妖精。このシェリルを誘うなんて百年早いのよ!とか言いそうである。
「・・・・・相変わらず罪作りなヤツ・・・・・・」
 甘く残酷、とはよく言った。いくら高性能を誇るミハエルの耳も、ナナセのエスコートに忙しいらしく、アルトの呟きは拾えなかったようだ。その代わり、ルカの耳には届いたようで、複雑そうな表情をアルトに向けていた。


◆◆◆◆◆

 カフェテラスから見える看板という看板には、超時空シンデレラの笑顔が大写しで描かれ、聞こえてくる音楽さえもランカのナンバーばかり。
「もうすっかり有名人になっちまったな」
 チュルチュルとストローを啜りながら、アルトは感嘆の声を漏らした。ついこの間まで、あたしなんか、が口癖だった少女とは思えない飛躍っぷりである。
「ランカちゃんを見ない日はないって感じだもんな」

 


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