| 「姫、一口ちょうだい」 そう言うや否や、ミハエルはアルトの手から飲みかけのペットボトルを奪った。そして、アルトの言葉も持たずに口を付ける。 「また・・・・・」 減っていく水を見ながら、アルトは呟いた。ここ最近、妙にミハエルに飲み物やら食べ物を横取りされている気がする。今日の昼だって、アルトのサンドウィッチを手ごと引き寄せ、一口齧って行ったのだ。アルトは大きく息を吐き出すと、不満の感情を言葉に乗せる。 「ミシェル、お前いい加減にしろよ?」 「ん?あぁ、悪い悪い」 一向に悪びれた素振りを見せずに、ミハエルはペットボトルの蓋を閉めた。どうやら、飲み過ぎを窘められた、と取られたらしい。違う、とアルトは首を振った。 「そうじゃねぇよ。お前さ、ここ最近しかもほぼ毎回、オレが何かしら口にしてると横から掻っ攫うよな」 「掻っ攫うとは人聞き悪い」 ミハエルは一瞬目を丸くしたが、すぐにいつものように柔らかな笑みを浮かべた。そして、手にしていたペットボトルをアルトに向かって放り投げる。 「一口貰ってるだけだろう?細かいこと気にしていると、女の子にモテないぞ」 クスっと笑って、ミハエルはロッカーからシャツを取り出した。暖簾に腕押し、と呟いてアルトは残りの水を一気に飲み干すと、ペットボトルをゴミ箱に放り込んだ。 「そう言えば、ルカはどうした?」 キッチリとネクタイを締めて、ミハエルは姿の見えない同僚の名前を出した。アルトは、ヤレヤレと首を振った。 「どっかの誰かさんが、いつまでも女の子と喋ってるから先に行っちまったよ」 「姫は待っててくれたんだ」 女の子を相手にしていた時と同じ笑顔で、ミハエルはアルトに微笑んで見せた。だが、それにほだされるアルトではない。むしろ冷ややかな表情で返す。 「オレは喉が渇いたから水を買いに行ってたんだよ」 EX-ギアは案外熱いのだ。練習の後は、どうしても喉が渇く。それをシャワーも浴びずに、にこやかに女の子の相手をするミハエルのマメさには、感服の念すら沸く。だが、とアルトはネクタイを結んだ。 「真似したいとは思わないけどな」 「何か言ったか?」 ロッカーから鞄を取り出しながら、ミハエルが顔を上げる。 「何でもねぇよ。早く行こうぜ」 もしかしたら律儀なルカは、校門辺りで待っているかもしれない。アルトは鞄を背負うと、部室のドアを開けた。 空は夕暮れへと傾斜し始めていた。少しだけ長く伸びる校門の影と、見知った顔にアルトとミハエルは顔を見合わせた。 「あれは俺たちを待っていた、とは言わないよな」 |