ミハエルの言葉に、アルトは一気に赤面した。耳まで赤く染めて、ミハエルを睨みつける。ミハエルは、口の中で沸き上る笑いを噛み潰した。舞台の上では、あれ程完璧に全く異なる人物を演じてきた天才役者が、途端日常生活となると泥の付いた大根役者に成り下がる。ミハエルの一挙手一投足にコロコロと表情を変えて、本当に可愛い。

「っ・・・・・誰が、そんなこと・・・・・・・」

 姫って呼ぶな、とアルトはミハエルの腕からスルリと抜けた。それでも、火照った頬はまだ熱い。何しろ、こんな風に抱き締められるのはもちろん、耳元で囁かれるのも一ヶ月振りなのだ。突然、何てことをしてくれるのだろう。しかも、公衆の面前で。

「取り敢えず、荷物送っちゃうからコンビニ行こうぜ」

 真っ赤になって俯くアルトの手を当然のように引いて、ミハエルはそのまま通りを挟んだコンビニに向かって歩き出した。

◆◆◆◆◆◆

「で、どこの運送業者に頼んだんだ?」

 コンビニで用が済んだら次は駅前のコインロッカー、とアルトを引っ張るミハエルに半ば呆れながら声を掛ける。付き合え、というがミハエルの中に明確なプランがあるのだろうか。プランがあるような、迷走しているようなどっちつかずの感覚。アルトにとって、ミハエルにはブラックボックスが多すぎる。それがミハエルの処世術だとしても、まったく表情を読ませて貰えないのは悲しい。

「ん?安心と信頼のSMS運輸さ」

 よいしょ、とロッカーの中から大きな荷物を引っ張り出した。パンパンに膨らんだスポーツバッグ。アルトは首を傾げる。

「弊社のちょっぱや当日便をご利用ですか?」

 ビジネスシーンに大人気のサービスである。他のサービスに比べれば少々割高だが、上手くすれば一時間以内に小包を届けられる。

「宿舎の窓口に届けてもらうようにしたから、これで心置きなく遠出ができる」

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