スポーツバッグを肩に掛けて、ミハエルはアルトに向き直った。濃紺と夕日が交差するガラスの空。こんな時間から、一体どこに行こうというのだ。

「遠出って、どこだよ?」

「良い所」

 スタスタと駅に向かって歩き始めるミハエルを追いかけて、アルトは食い下がる。

「行き先を言えって!」

 大体、ミハエルが言う『良い所』など如何わしい場所ではないのか。そりゃ、とアルトは薄く頬を染めた。そういうことになるのは、やぶさかではない。だが、とアルトは乙女のように恥らう。やはり、心の準備はさせて欲しい。いや、一足飛びにそのような関係に今すぐなりたい、と言うわけではなく・・・・・・。

「内緒。そうだなぁ、俺の取っておきの場所とだけ言っておこう」

 いたずらっ子のようにキラキラとした笑顔で言われて、アルトは唇を尖らせた。そんな笑顔にほだされると思っているのだろうか。アルトはダウンジャケットの裾を握り締めた。

「寒いのは嫌だ」

 少しずつ濃さを増していく吐く息の白さに、アルトは震えた。このまますっかり日が落ちれば、寒さは一気に加速するに違いない。

「我侭なお姫様だなぁ」

 ミハエルは肩を竦めると、自分のマフラーをアルトの首に巻きつけた。

「ほら、これで寒くないだろう?」

 ミハエルの香りと体温が残るマフラーに顔を埋めて、アルトは無言のまま頷いた。ミハエルはズルイ。二歩も三歩もアルトの先を行く。自分の行動でアルトがどう反応するか、分かっているようだ。その得意げの顔に腹が立つ。

「ちょっと急ぐぞ」

 チラリと時計に目をやって、ミハエルはアルトの手を取って走り出した。

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