餅のカリカリともっちりとろんの食感に驚いたり、黒豆を箸で摘まむのに大苦戦し、田作りをおっかなびっくり食べたりと、ミハエルはアルトの心配を他所に、おせちの全てに手を着けた。特に気に入ったのは、餅だった。最初は飲み込むタイミングが分からず苦労したが、慣れてくれば、これほど手軽に食べられて腹持ちの良い物もない、と絶賛する程だ。 「あ〜、美味かった。食った食った・・・・・」 ふぅ、と一息つきながら、ミハエルはアルトの隣に移動する。何だよ、と不審そうな目を向けるアルトも気にせず、満腹で上機嫌なミハエルはニッコリと笑う。 「おせちって、豪華なんだな」 数の子や海老などは、所謂高級食材だ。 「それぞれ意味があるんだよ。子孫繁栄とか、長寿だったり・・・・・」 近年のおせちは豪華さばかりが先にたって、料理に込められた願いが希薄になりつつある。伝統の世界で生きてきたアルトには、少しばかり寂しさを覚えてしまうのも事実だ 「お屠蘇みたいに?」 苦しい、とミハエルはそのままゴロリと横になる。しかも、ちゃっかりとアルトの膝を枕にして。 「ちょっ・・・・ミシェル!食ってすぐ寝ると、牛になるぞ」 膝枕が恥ずかしくて、アルトは必死にミハエルを起こそうと試みる。だが、ミハエルは寝返りを打つと、額をアルトの腹に擦り付けた。柔らかい肌触りに、ミハエルは目を細める。 「姫、このカーディガンってさ・・・・・」 「っ・・・・・しょうがないだろう・・・・・・新しい服がこれしかなかったんだから・・・・・」 アルトが袖を通している白いカーディガンは、ミハエルがクリスマスプレゼントに、とアルトに渡したものだった。本当だったら、ロマンチックな雰囲気の中で渡したかったのだが、仕事や喧嘩のせいで、何もできないまま手渡しただけ。プレゼントを開けたアルトの綻ぶ笑顔を拝むことすら、できなかったのだ。新年は新しい服で迎えるものだから、と必死に言い訳をしているアルトに、ミハエルは小さく笑いを零す。 「うん・・・・・似合ってる・・・・・」 スリ、と腹に額を押し付けられて、アルトは顔を真っ赤にして押し黙った。ミハエルはズルイ。どうすれば、アルトが喜ぶか知っているのだ。こうやって甘えられたら、悪い気分はしない。いつも格好つけているミハエルが、決して他人に甘えたりしないと知っているからこそ、こうして甘えるのは他でもない自分だけだと、確信できる。 「ミシェル・・・・疲れてるのか・・・・・・」 金色の柔らかな髪をそっと梳きながら、アルトは囁くように声を掛ける。街は新年特有の静けさに包まれ、今日ばかりは時間がゆっくり流れているようだ。膝に感じる心地よい重みに、アルトの表情も知らず柔らかい微笑が浮かぶ。 「・・・・・アルトさぁ・・・・・」 サラサラと髪を撫でられる気持ち良さを覚えながら、ミハエルは思い出したように話し掛ける。 「これか銭湯行く時は、俺にも声掛けろよ」 ピタリ、とアルトの手が止まる。明るい表情はみるみると沈み、肩を落とす。アルトは唇の裏を噛んだ。 |