「・・・・ミシェル」 呼ばれて顔を上げると、盃が渡される。手に取ると、そのまま銚子からお屠蘇が注がれる。朱塗りの盃に、ふわりとハーブのような香りがする酒が満ちる。 「アルト貸して・・・・」 手酌で注ごうとするアルトに声を掛けて、その白くほっそりとし指が持つ盃に、覚束ない手付きで銚子を傾けた。おっとっと、とアルトの声に、ミハエルは慌てて手を戻す。顔を上げると、アルトが目を細めている。 「じゃぁ、あけましておめでとうございます」 「おめでとうございます」 盃を、スッと高く掲げるアルトにミハエルも倣う。盃を傾けると、ハーブの香りと多少の苦味が口に広がる。それでも、ほんのりと甘い口当たりにミハエルは息を吐き出した。 「これ、何て言うの?思ったより飲みやすいな」 ミハエルの感想に、アルトは表情を緩めた。 「お屠蘇って言うんだ。一年の邪気を払って延命長寿を祈って飲む、正月の祝い膳には欠かせないお酒なんだ。口当たりが良いのは、少しみりんを混ぜてるからだと思う」 説明しながら、アルトは重箱を開ける。その色鮮やかさと豪華さに、ミハエルは再び歓声を上げた。紅白のかまぼこに、黄金色の眩しいくりきんとん。艶やかな黒豆に、くるりとカーブの美しい、赤い海老。 「オーソドックスなおせちを作ったから、食えそうな物を適当に摘まんでくれ」 おせちには、ミハエルには馴染みのない食材で作られた物も多い。昆布巻きなど、その代表ではないだろうか。実は、まったく手を着けられないことを考慮して、ミハエルが普段食べるような食材も用意してあったりする。 「こっちは何だ?」 ミハエルは、椀の蓋を開けた。ふわりと鼻腔を擽る香りに、ミハエルはふと思い出す。夢現に美味そうだと思ったのは、この香りだ。 「お雑煮だよ」 椀の中に張られた透明な出汁に、小松菜と鶏肉にかまぼこ、そして焼いた四角い餅が二つ入っている。ミハエルは物珍しそうに、箸で突いた。外は、随分と固そうだ。そして、自分の言葉を思い出す。百聞は一見に如かず。どうにか箸で持ち上げると、一口ガブリと噛り付いた。 |