「っ・・・・・・・何で・・・・・だよ・・・・・」

 どうせミハエルは、他の男の目が云々、と言うのだろう。自分のことをそんな目で見るような人間は、どこにもいないのに。アルトは、ギュッと拳を握った。

「・・・・・・悪くないなぁ、と思ってさ・・・・・銭湯って・・・・・」

 嘘ではない。もちろん、アルトのことを心配する気持ちはある。アルトの白い肌に、邪な目を向ける輩を排除する目的もあるが、何よりもう一度風呂に入りたいとも思ったのだ。

「・・・・・気に入ったのか?」

 探るようなアルトの声音に、ミハエルは寝返りを打ってその美しい顔を見上げる。

「あぁ・・・・アルトが通う理由が分かったよ」

 柔らかく微笑み掛けると、アルトの顔にも花が咲く。ミハエルは手を伸ばすと、アルトの首筋に指を絡めた。そのまま引き寄せるようにしながら、自らも上体を起こす。戸惑うように揺れる琥珀色の瞳に笑顔で応えると、そっと唇を近付ける。

「・・・・・・ミシェル・・・・・・」

 二人の唇が触れ合う刹那、ドンドンとけたたましく玄関のドアが叩かれる。その勢いは、借金取りもかくや、だ。

「・・・・・何だよ」

 膝にミハエルを乗せていることさえ失念して、アルトは大慌てで立ち上がった。静寂に包まれる正月に、こんな騒音を出していれば、ご近所から何を言われるか分かったものじゃない。キスを邪魔された気恥ずかしさを誤魔化すように、口の中で文句を呟きながら、玄関を開けた。

「ハッピーニューイヤー!アルト」

「おめでとう、アルト君」

 そこにいたのは、おんぼろアパートに不似合いな、銀河で一番華やかな少女たちだった。

「シェリル!ランカまで・・・・」

 何しに来た、と喘ぐアルトに、シェリルは豊かな胸の下で腕を組んでみせる。

「ランカちゃんと初詣に行こうって話しになってね。だったら、一人寂しく新年を迎えているだろうアルトも誘ってあげようと思って」

「・・・・残念。俺も一緒だよ」

 ギシリ、と床を鳴らしながら現れたミハエルは、アルトの肩に手を載せて唇の端を吊り上げる。

「ミシェル君もおめでとう」

 にっこりと微笑むランカと対照的に、シェリルは眉根を寄せると肩を竦めた。

「新年早々、男二人で顔つき合わせてるなんて、やっぱり寂しいわね」

「ランカちゃんと女子会しているシェリルも、言えた義理じゃないだろう?」

 妙に緊張を孕んだ空気に、アルトはランカとシェリルの腕を掴んだ。

「立ち話もなんだし、とりあえず入れよ」

 あまり玄関先で賑やかにするのは、宜しくない。笑顔で一触即発の雰囲気を醸し出しているシェリルとミハエルの背中を押して、アルトは玄関のドアを閉めた。

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