「クリスマスのこと・・・・・・その・・・・・悪かったな・・・・・」

 驚くミハエルに、アルトは目を逸らして小さく呟いた。普段大人のように物分りの良いミハエルが、クリスマスに対してあんなに拘るとは、アルトには想定外だった。果たして、おせちぐらいで許されるだろうか。

「こっちこそ・・・・・きちんと話してなかった俺も悪かったんだし」

 蕩けるように甘い蜂蜜のような笑顔を浮かべて、ミハエルはアルトの長い髪を梳いた。アルトにとってクリスマスが、決して特別な日ではなかっただけ。互いの文化や習慣の違いを改めて認識し、共通理解を深められるようにコミュニケーションを取る必要があることが分かっただけでも、先日の喧嘩は意味のある行為だったのだ。

「・・・・・ミシェル・・・・・?」

 サラリと髪を撫でたミハエルの指が、アルトの頬に触れた。ガラス越しのエメラルドグリーンの瞳に見竦められて、アルトは不安そうにミハエルの名前を呼ぶ。

「アルト・・・・・」

 甘い響きを孕ませるミハエルの声と、そっと近付いて来る整った顔に、アルトはミハエルの胸を強く叩いた。

「往来で何しようとしてるんだよ?」

 ジロリと睨みつけると、ミハエルは悪びれることなく笑う。

「大丈夫。どうせ人もいないんだし」

 確かに、大晦日の遅番勤務は壊滅的な人手不足だった。それでも、こんな公の場でキスなどしていい理由にはならない。止まる気配のないミハエルの唇を手で押さえて、アルトは眦を吊り上げる。

「それで、どうするんだ?」

 無理矢理軌道修正を掛けると、ミハエルは残念そうな表情を浮かべながら、チロリ、とアルトの掌を舐めて離した。

「ミシェルっ!」

「もちろん、仮眠は取るつもりだけど。姫は?休んでいかないのか?」

 綺麗な顔を怒りに歪ませるアルトを笑顔でかわして、ミハエルはアルトの細い腰を抱き寄せる。相変わらず、悪びれる、ということを知らない男だ。きっと、今年もこんな調子なのだろう、とアルトは言っても無駄だと諦めて、ため息で気持ちを切り替える。

「まだ、お重に詰め終わってないから帰ろうと思って。それに・・・・」

「それに?」

 はにかむように微笑むアルトに、ミハエルは先を促した。何だか、嫌な予感しかしない。そんな危惧をミハエルが抱いているとも知らず、アルトは綻ぶような笑顔を閃かせる。

「銭湯に朝風呂に行こうかと思って」

 あぁ、とミハエルは天を仰いだ。

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