訝るランカの声も聞こえない。シェリルとランカは首を傾げながら、ミハエルの視線の先を追った。黒いファーの付いたショールを纏い、山吹色の花模様が美しい濃紺の総絞りの振袖を着た女性が歩いていた。シンプルに纏めた黒髪と、白い肌。形の良い唇には、マットな紅。華やかというよりは、清廉で美しい。和服が持つ本来の美しさが、魂を得て形になったよう。ほぅ、とため息が漏れる。それと同時に、ミハエルが動いていた。まるで引き寄せられるように、カフェを出て女性に声を掛けている。 「・・・・・・この状況でナンパとは・・・・・・」 シェリルは思わず唸った。銀河の歌姫を目の前にして、他の女性に声を掛けるとは。まぁでも、と肩を竦める。確かに、あれ程までに美しく着物を着こなす女性なら、敗北を喫しても納得できる。歩き方はもちろん、ショールを抑える手付きや所作。その全てが着物を引き立て、それ故に女性自身を美しく魅せているのだ。 「ミシェル君って、紳士なんだなぁ・・・・・・」 ごく自然にドアを開け、女性をエスコートしている。女性関係が派手だ、と言われているが、それでも人気があるには、こうした細やかな気遣い故なのだろう。 「あら、振られたかしら?」 一部始終をずっと観察していたシェリルは、小さく笑った。飲み物でも奢ろうとしたのだろうか。カウンターに至る道すがら、女性がパタパタと手を振っている。さぁ何と言ってからかってやろう、とほくそ笑んでカップを傾けると、聞き慣れた声が響いた。 「待たせたな」 シェリルとランカは顔を見合わせてから、ゆっくりと顔を上げた。そして、二人は固まった。 「・・・・・・・ア・・・・・アルト・・・・・君・・・・・・」 そこに立っていたのは、先程ミハエルを振った和服美人だった。粋に抜いた衣文から覗く、白く細い首のライン。しっとり濡れた琥珀色の瞳。どれもが知っている筈なのに、見知らぬ女性にしか見えない不思議。唇を戦慄かせているランカとシェリルに、アルトは困ったようにミハエルを見た。 「まぁ、それが普通の反応だろうな・・・・・・」 ミハエルは苦笑した。自分だって、一瞬目を疑ったのだ。それでも、すぐにアルトだと分かったのは、愛故だ。 「やっぱり、アルトに逆らう度胸はなかったか」 「・・・・・うっせぇ・・・・・」 紅を引いた唇を尖らせるアルトに、ミハエルは目を細める。うっかりシェリルにサムズアップしそうになる所をどうにか抑えて、アルトに席を勧める。だが、アルトはショールを取ることなく首を振る。 「そろそろ初詣に行かないと、日が暮れちまう」 既に日は落ちかかっていると言っていい。急き立てるアルトに、シェリルはやれやれと立ち上がる。そして、和服の似合う撫で肩にポンと手を乗せて、呆れるように呟いた。 「・・・・・・・振袖着ている間くらい、言葉遣い気をつけなさいよ」 |