窓際のソファ席に身を沈めて、ミハエルは通りがけに買った雑誌を捲った。正月らしく初詣帰りの客達で、元旦にも拘らず店内は賑わっていた。ミハエルはゆっくりとカップを傾けて、時計を確認する。セルフタイプのカフェは、店員を気にせず時間を潰せる。コーヒーの味も悪くない。多少喧噪は気になるが、退屈を忘れさせてくれるには丁度良かった。それでも、とミハエルはカップの中に呟きを落とす。

「随分掛かるんだなぁ・・・・・・」

 着物の着付けがどれほど大変か、ミハエルには想像もつかなかった。しかも、シェリルとランカの二人だ。それなりに待たされることは覚悟していたが、雑誌のページがなくなるまでとは。考えが甘かったのかもしれない。

 やれやれ、と読書で強張った筋肉を解していると、ミハエルの視界に華やかな少女たちが映った。道行く人たちが振り返る。無理もない、とミハエルは微笑んだ。彼女たちは、銀河を代表する歌姫なのだ。人の目を引くのは、当然のこと。更に、今日は豪奢な振袖を着ているのだ。輝くばかりのオーラは、普段の三倍増しどころの騒ぎではない。

「お待たせ、ミシェル君」

 ピンクの振袖が花だとするなら、くるんと結ったお団子は小さな葉を思わせる。そう、ランカを可愛らしい花に例えるなら、シェリルは咲き誇る大輪。その華やかにして可憐な歌姫の姿に、あれ程煩かった店内は、水を打ったように静まり返っている。

「何を飲む?」

 手を振りながら近付いてくる彼女たちに、ミハエルはサッと席を立つと、歌姫たちに席を勧める。そうしながら、ミハエルは辺りを見回した。シェリルたちを着付けたアルトは、どうしたのだろう。一緒に来るのではなかったのか。すぐにでも聞き出したい衝動に駆られたが、そこは伊達男のプライドで押し留める。

「私、黒蜜抹茶ラテ!」

「・・・・・ランカちゃんと同じでもつまらないわね・・・・・じゃぁ、ゆず蜜ティーをお願い」

 飲み比べしましょう、と華やぐ少女たちのリクエストに、ミハエルは販売カウンターへと向う。注文している間にアルトが来るのでは、と商品が出てくるまで何度も出入り口を振り返ってしまう。

 ランカの黒蜜抹茶ラテとシェリルのゆず蜜ティーを両手に、ミハエルは席に戻った。しかし、そこには振袖姿の歌姫たちがいるだけで、アルトの姿は見えない。お待たせ、と飲み物を渡しながら、ミハエルは我慢しきれずに口を開いた。

「そう言えば、アルトは一緒じゃなかったのか?」

 ソファに座り、冷静な振りをして温くなったカップを傾ける。シェリルはゆず蜜ティーを一口啜って、ニヤリと口角を吊り上げた。

「アンタも着物を着たらって、置いてきたの」

 せっかくこんな素晴らしい物を持っているのだから、箪笥に仕舞い込んでいるのは勿体ない。何より、大事に思う気持ちがまだあると言うのなら、着てあげなければ着物に気持ちは伝わらない。

「・・・・そう言われて着るかなぁ・・・・・」

 ミハエル自身、アルトの着物姿を見てみたい、という気持ちはある。何しろ、一目惚れしたあの姿なのだ。胸がときめかない方が、どうかしている。だがそれ以上に、アルトが男として生きたいと願っているのも知っている。だから、とミハエルは温くなったコーヒーを啜る。出掛けに言葉を飲み込んだ。新年早々、アルトの表情を曇らせたくなかった。

「私の言うことに逆らえるとでも?」

 ニヤリ、と凶悪に笑うシェリルに、ミハエルは乾いた声で笑うしかなった。さすが、銀河の女王様である。アルトの葛藤とか尊厳とか、見事なまでにスルーしている。心の底からアルトに同情を覚えた時、外を歩く一人の人物にミハエルの目は釘付けになった。そのまま、思わず立ち上がる。

「・・・・・ミシェル君?」

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