駅から神社までの道すがら延々と続く屋台に、シェリルは宝物を見つけた子供のように瞳を輝かせ、早く参拝したいアルトをヤキモキさせた。屋台丸ごと買いそうなシェリルをどうにか宥めて漸く境内へ辿り着くと、早速参拝を済ませる。行列に並んでいる間に、アルトに参拝の仕方を教わっていたお陰で、どうにか様にはなったようだ。参拝客の海を掻き分けて、どうにか人混みから脱出すると同時に、シェリルが声を上げた。 「ねぇアルト。あの行列はなぁに?」 シェリルが指差す先には、参拝客たちとは違う列が出来ていた。先頭の人が、少し大振りの筒を振っている。 「あぁ、おみくじだよ。一年の運勢を占うんだ」 占う、という単語に女子二人の目が輝く。その表情に、アルトは渋面を作った。日はとっぷりと落ち、吐く息の白さが際立って見える。だが、振袖で初詣という状況に興奮しているシェリルたちは、寒さという物を感じないらしい。アルトは、深くため息を吐いた。 「行ってこいよ・・・・・」 肩を竦めて、二人の少女がおみくじに走る背中を見送ると、アルトはショールの前を掻き集める。そして、冷えてしまった手を温めようと口元に翳した。息を吐きかける直前、ミハエルの大きな手が冷え切ったアルトの指を包み込んだ。 「・・・・・随分冷たいな・・・・・」 はぁ、とミハエルは熱い息をアルトの指に吐きかける。その気恥ずかしさに、アルトは手を引く。だが、ミハエルがそれを許さない。指を絡めて、ギュッと握る。 「っ・・・・ミシェル・・・・・」 こんな人の往来が激しい場所で、何を考えているのだろう。いたたまれなさに、アルトは頬を赤らめる。だが、ミハエルは気にする様子もなく、目を細めて柔らかい笑みを浮かべている。 「こんなこと言えば、アルトは嫌がるかもしれないけどさ。・・・・・・例えシェリルに逆らえなかったとは言え、アルトの着物姿が見れて嬉しいよ」 綺麗だ、と耳朶に唇を寄せて囁く。その甘く特別を孕む響きに、アルトは俯いた。そして、ミハエルの肩口に額を押し付けた。ミハエルのコートにファンデーションが付くことなど、知ったことではない。 「っ・・・別に・・・・シェリルに逆らえなかっただけじゃねぇよ・・・・・・」 ミハエルは、アルトの次の言葉を促すように、ショールに包まれた背中を抱き寄せる。不意に強く感じるミハエルの体温に、アルトの鼓動が高鳴った。ミハエルのコートを握り締めて、途切れそうになる言葉を紡ぐ。 「・・・・喜ぶかなって・・・・・・・ミシェルが・・・・・」 あぁもぉ、とミハエルは星が瞬き始めた天を仰いだ。このお姫様は、どこまで自分を骨抜きにしてくれるのだろうか。しかも、アルトは計算でやっているのではないのだ。だからこそ、とミハエルはアルトの耳に直接注ぐ。クリスマスに言えなかった想いを。 「今年だけじゃなくてさ、これからもずっとよろしく」 「・・・・・それ・・・・・って・・・・・」 ミハエルの言葉の意味を知りたい、と見上げた瞳は揺れている。ミハエルは優しく微笑むと、アルトの左手を取った。そして、そのまま口付ける。 「・・・・・アルトは?」 チュっとミハエルの唇が触れた薬指に、アルトは言葉を失くした。ただ嬉しくて、新年早々こんな展開があるなど思いもしなかった。それでも、この気持ちを伝えたくて、上ずりそうになる言葉を必死に繋ぐ。 「オレも・・・・・・ずっと・・・・・よろしく・・・・・・」 それだけ紡いで、アルトはミハエルの肩口に額を押し付けて、滲む視界を隠すのだった。
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