元々ミハエルによって随分と残りが少なくなっていたおせちは、見慣れない料理に興味津々なシェリルと煮物に感動したランカによって、早々に完食寸前の状態に陥った。

「食材買っておいて正解だよ」

 一人台所に立って、アルトは衣を付けた鳥肉を熱した油に放ちながら、小さくぼやいた。それでも背中の向こうで、初めて食べる餅やおせちに大騒ぎしながら、賑やかな会話が続いているのは悪くない。カラリと揚がった唐揚げを大皿に豪快に盛ると、アルトは小さく笑みを唇に乗せて、振り返った。

「お待たせ・・・・まだ足りないようなら、何か作るから」

 ドン、と重たい音と共にちゃぶ台に皿を置くと、欠食児童たちが目を輝かせて感性を上げた。

「姫の唐揚げ美味いんだよなぁ。ジューシーでぷりぷりしてて」

「衣もサクサクなんだよねぇ」

 黄金色に輝く唐揚げに手を伸ばし、ミハエルとランカは目尻を下げる。

「しかも、揚げたてとか反則よね」

 はふはふと頬張りながら、シェリルは悔しそうに呟いた。ダイエットなんてしないわ、と嘯く彼女だが、カロリー計算を怠ることはない。そして、常人離れした自律心で遵守するからこそ、奔放な振る舞いでも、そのプロポーションをキープしていられるのだ。だがアルトの唐揚げは、そんなシェリルの矜持を簡単に打ち砕く程、美味しかった。二つまでなら、と思っていた筈なのに、気が付けば四個五個と手が伸びてしまう。

「っ・・・・・そんな褒めても何も出ねぇぞ・・・・つうか、それ食ったら初詣行くぞ。初詣」

 ミハエルやランカだけでなく、食に煩いシェリルにまで両手放しで絶賛されるなんて、居心地が悪くてしょうがない。

「初詣と言えばアルト。私、着物で行きたいわ」

 どうせアルトを誘うなら、とランカとそんな話をしていたのだ。視界から唐揚げの山を追い出して、シェリルはズイとアルトに迫る。

「どうせ、何枚か持ってるんでしょ?」

 目を細めて艶然と微笑むシェリルに、アルトは思わず逃れるように首を引いた。

「・・・・・っ・・・・シェリル、お前さ何か勘違いしてないか?」

 拳一つ分後ろに下がりながら、アルトは小さくため息を吐き出した。

「勘違い?」

「そう。着物って旅館の浴衣と違ってサイズがあるんだよ。ランカが今のオレの着物を着たら、確実に引き摺るぞ」

 アルトの言葉に、ランカが肩を落した。どうやら、シェリルだけの我侭ではなかったらしい。左右の髪も力なく垂れたランカに、アルトは小さく唸る。小柄なランカに、自分の着物が合わないのは変えようもない事実だ。だが、そんな風にあからさまに気落ちされると、困ってしまう。アルトは頬を掻きながら、ランカを見る。そして、自分を睨み付けるシェリルを見て、アルトは重たい口を開いた。

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