ふわふわと揺れるミハエルの尻尾は、一つだけではなかった。まるで金色の穂が花を咲かすように九つに分かれ、ふわりと広がっている。 「・・・・・玉藻前・・・・」 九尾の妖狐は、アルトにも馴染みがあった。つまり、とアルトは小さく唸った。和風とは言え、一応ハロウィンのカテゴリからは逸脱していないらしい。 「それって、確か九尾の狐が美女に憑り付いて云々ってヤツだろう?」 確か、玉藻前曦袂という名の演目ではなかったか。振り返るミハエルに、アルトは目を丸くした。ミハエルが歌舞伎を見ていたことは知っていたが、想像以上の知識量に言葉も出ない。 「っ・・・・よく知ってるなぁ・・・・」 「誰かさんのお陰でね」 感心するアルトを茶化すように、ミハエルは茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべて振り返る。柔らかく揺れる金色の尻尾と、ミハエルの甘い蜂蜜のような笑顔に、アルトは更に強く袴を握り込んだ。胸の奥が痛い。 「というか、ここまでしっかり作り込んであるって、仮装と言うよりコスプレなんじゃねぇの?」 角の髪飾りはもちろん、この柔らかそうなリアルな質感を持った尻尾は感嘆に値する。触りたくなる衝動をどうにか抑えて、アルトは誤魔化すように口を開いた。 「その辺のボーダーってどうなんだろうな。でも、今回はウィッグやらカラコンまではしてないから、仮装の領域内なんじゃないか?」 眼鏡を外して来いとまでは指示されていないし、とミハエルは笑う。アルトと自分の衣装は、ミーナの手によって準備されたらしいから、もしかしたら何か元になった物があるかもしれない。それでも、世の中には深く突っ込んではいけない、ということが多々存在するのだ。 「取り敢えず、走るか」 考えても答えの出ないことを、悩んでいる時間はない。そう、集合時間は最早目の前にまで迫っていた。
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「先輩!」 ギリギセーフでバスに乗り込むと、可愛い後輩がブンブンと手を振ってくる。パレードの出発地点である議事堂までは、政府がバスを出してくれるらしい。それにしては、とアルトは小さく呟いた。必要最低限の人員以外、拒否権もないままハロウィンパーティーに引き立てられたにしては、妙に席に空きがある。 「ルカはドラキュラか」 黒いマントにシルクハット。そして、天使の微笑みには不似合いの大きな牙。本人の性格と、これ程乖離した仮想もないだろう。数多の美女の生き血より、たった一人の微笑みを欲するルカには、少々荷が勝ちすぎている。それでも、とミハエルは形の良い顎に指を掛けて、小さく唸る。 |