脚を剥き出しにすることを免れた、と喜ぶべきか。いや、とアルトは静かに首を振った。年頃の少年が、セクシーな女性物のタイツを履かざるを得ないヒエラルキーに、涙するべきだろう。それにしても、とアルトは小袖と袴に一瞥を投げた。丈の長さもさることながら、どうして小袖のクセに、深いスリットが入っているのだろう。このまま着れば、袴の透き間から不格好な下着が見えてしまうのではないか。しかも、男物の下着を半端に覆うのは、セクシーなタイツだ。一体何の罰ゲームか。 「姫!集合時間まで、三十分切ったぞ」 急げ、というミハエルの声に、アルトは我に返った。民間とは言え、ここは軍事会社なのだ。そう、例えどれだけ理不尽な命令でも、発令されれば従うこと以外は許されないのだ。どうにでもなれ、とアルトは勢いよく小袖を羽織った。
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悲しいくらいに慣れた手つきで、アルトは瞬く間にミニ袴の巫女姿に変身を終えた。思っていたとおり、緋色の袴の透き間から、スカイブルーの下着と、それをガーターのように押さえる黒いタイツの紐が覗いている。どう贔屓目に見ても、立派な変質者にしか見えない。それでも、構っている時間はない。携帯を見れば、残り時間は二十分弱。アルトは紅の鼻緒が可愛らしい、黒い漆塗りの下駄を引っ掛けると、ミハエルが何か言っているのも構わず、廊下へと飛び出した。 廊下は、いつもと違う雰囲気に支配されていた。色取り取りの仮装を身に纏い、右往左往。ともすれば、ここが民間軍事会社ということを忘れてしまいそうな光景だ。皆集合時間が迫る中、自分のことだけしか見えていない。 そんな中、カラン、と涼しげな音を響かせて、流れるような歩行で人の波を擦り抜けて行く巫女の姿に、誰しも一瞬時を忘れて振り返った。艶やかな黒髪を棚引かせ、下駄を高らかに鳴り響かせて、颯爽と歩くその姿。アルトだと誰しもが気付きながら、確証が持てぬまま声を掛けることさえできない。 「言いたいことがあるならハッキリ言えよ!」 少しでも見られないように、と袴の脇を握り締めて、アルトは小さく吐き捨てた。忙しそうに行き交う人々の脚が止まれば、幾ら鈍感なアルトでも気付く。何か言いたそうな表情に、アルトは小さく息を吐き出した。どうせ、ハロウィンらしくない、とか、変な格好などと思っているのだろう。彼らの心の内など知る由もなく、アルトは逃げるように足早にボビーの部屋を目指した。 カラコロと忙しなく下駄の音を響かせてボビーの部屋の前までやって来ると、丁度ドアが開いた。バッチリメイクをした女性隊員が、深々とお辞儀をしてアルトの隣を通り過ぎる。どうやら、ボビーはアルトだけでなく、職員全員のメイクを担当しているようだ。自分の準備もあるだろうに、本当に面倒見の良い人だ。アルトは小さく笑みを零して、開け放たれた扉を軽く叩いた。 「遅くなりました」 |