「巫女?」

 ハロウィンなのに?とアルトは首を傾げた。ミハエルを調伏する役目なのだろうか?いやいや、とアルトは首を振る。ハロウィンなどの横文字文化に馴染みのないアルトでも、そんなお役がないことぐらい分かる。では、アルトたちの文化が捻じ曲がって伝わってしまったのか。それはあり得る話だ、と呟きながら、アルトは袴を手に取った。そして、驚愕した。

「何だ、この短さは!」

 巫女ならば、神に仕える身として、慎ましく足元まで隠さねばならない、だが、アルトの手にある緋袴は、ミニスカートと呼んでも差し支えのない長さしかなかった。慎ましいどころか、剥き出しの脚が艶かしい。嫌な予感を払拭できぬまま、アルトは小袖に手を伸ばした。あぁ、とアルトは小さく呻いた。案の定、小袖の丈も短い。それは、剣道の道着を彷彿とさせた。ただ、違う点があるとすれば、袖口と襟元を彩る鮮やかな深紅。こんな物冗談じゃない、とフルフルと首を振るアルトの肩を、ミハエルの手がポンと叩く。

「あの時、何でも良いって言ったの、アルトだぜ?」

 記憶にない、と唇を動かそうとした瞬間、頭の中で自分の声が確かに紡ぐ。二週間前くらいだっただろうか。訓練を終え、ヘトヘトのままブリーフィングルームに招集を掛けられたのは。半ば眠りながら話を聞いていて、不意にミーナに尋ねられたのだ。希望はあるか、と。

「・・・・あれか・・・・・」

 訳も分からぬまま、何でも良い、と返したような、ボンヤリとした記憶が浮かび上がる。あぁ、とアルトは項垂れた。適当に言葉を返したばっかりに、こんな恥ずかしい格好をする羽目になろうとは。

「まぁ、観念するんだな。急がないと、ボビー大尉の所で可愛くして貰う時間がなくなるぞ」

 何だそれは、とアルトはぼやきながら、パジャマ代わりのTシャツを脱ぎ捨てた。化粧するくらいなら、悲しいかな自力で何とかできてしまうのだ。ボビーに好き勝手、否ボビーの手を煩わせる間でもない。

「仕上げの小物なんかは、大尉が持ってるって話だぜ?」

 なるほど、とアルトは呟いた。だから、幾ら箱を引っ繰り返しても足袋が見つからないのか。確かに、普通の着物と違ってやたら丈が短いのだ。足袋を後から履くことに、何ら問題はない。それでも、とアルトは諦め切れずに、バタバタと小袖と緋袴を振った。伝説とまで謳われたボビーが、足袋まで回収してしまうなんて、そんな初歩的なミスをするだろうか。それとも、そこまで和服に造詣が深くないのか。それは、とアルトが表情を曇らせた時、小袖の中から昆布のような物がヒラリと落ちた。もちろん、昆布ではない。手にとって見たそれは、まるでタイツのようだった。だが、それは決してタイツではない。言うなれば、ニーソックスとガーターベルトが一体化した物。なぜこんなセクシーな物が、小袖から零れ落ちたのか。誰かの衣装が交じってしまったのか、と首を傾げて観察すれば、その爪先は足袋のように二つに別れている。

「・・・・・本気かよ・・・・・」

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