「まぁ、姫はブリーフィングの時に舟を漕いでたからなぁ」

 呆れるように笑って、ミハエルはアルトの黒絹の髪に指を滑らせた。サラサラと指の間から零れる心地よさに目を細めて、不満そうな色を浮かべる琥珀の瞳を覗き込む。

「今日が休校になったのは、船団挙げてハロウィンパーティーをする為。そして、俺たちが仮装しているのは、それに参加する為だよ」

「船団挙げてハロウィンパーティーなんて、何考えてるんだよっ?」

 それが普通の反応だし、実際フロンティア市民からも聞こえてきた声でもあった。だが、とミハエルは考える。いつ終わるとも知れない、バジュラとの激しい交戦。日々広がる被害と、明日は自分かもしれない、というストレスに、船団全体が暗い雰囲気に包まれているのは事実だ。そんな市民を少しでもリフレッシュさせたい、と政府が考えるのは当然だろう。しかし、だからと言って大統領の鶴の一声で、祝日でもなんでもなかったハロウィンを休日にしてしまうのは、英断にしては度が過ぎているような気もしないでもない。

「何って、フロンティア市民の心のケアだろう?」

 政府関係者や各省庁の人間が仮装し、フロンティア議会議事堂から大統領府までの道のりをパレードしつつ、やはり仮装した子供たちを輪に加えながら練り歩き、バルコニーに出ている大統領夫妻に『 Trick or Treat 』と言うのが、この企画の目玉だった。そして、そこにSMSも参加するように、依頼が来たのだ。

「プレジデントオーダーか?」

 遠い世界で、そんな話が聞こえていたような気がする。

「いや、新統合軍からの依頼らしい」

 このハロウィンパレードの目的には、守る側と守られる側の信頼関係の構築も含まれているらしい。だが、男女の雇用機会均等により、新統合軍にも女性職員が多く採用されてはいるが、やはりまだ男性職員の方が比率としては多く、華やかさに欠ける、という理由からSMSに参加するよう依頼が来たらしい。

「そんな下らない依頼、断れなかったのかよ」

 同じようなボヤキを、オズマもしていた。ミハエルは、笑い出しそうになる自分を必死に抑えて、キャシーと同じ言葉を返した。

「しょうがないだろう。新統合軍はウチのお得意様なんだから」

 お得意様どころか、最重要顧客様だ。

「というわけで、俺らに拒否権なんかあるわけもなく、楽しく仮装準備に取り掛かっているんだよ」

 なるほど、とアルトは息を吐き出した。廊下がバタバタと騒がしいのは、そのせいか。

「てなわけで、これが姫の衣装な」

 そう言ってミハエルは立ち上がると、白い箱をアルトに押し付けた。蓋を開けると、そこには見慣れた衣類が入っていた。なるほどミハエルが、着慣れている、という筈である。正直、ミハエルのように馴染みのない衣装だったらどうしよう、と密かに不安に思っていたので、これは正直有難い配慮である。アルトは、箱の中を検めた。白い小袖と緋袴。

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