姫じゃない!というお約束のリアクションを期待したのだが・・・・。 「・・・・アル・・・ト・・・・・」 そこには、ふわふわの尻尾たちに埋もれるようにして眠る、美しい鬼がいた。大人びた口紅と対象的な、どこか幼さを残すあどけない寝顔。艶やかな黒髪は豪奢に広がり、薄く開いた唇から落ちる寝息すら可愛らしい。何より、すべてが無防備だ。ころん、と脱げた下駄。乱れた袴の裾。何より、とミハエルは思わず天を仰いだ。 「・・・・・マジかよ」 緋袴の深いスリットがパックリと口を開け、白い肌が大きく覗いている。それどころか、とミハエルは強く目を瞑った。白い肌に食い込むように、ベルトのような黒いリボンが横切っている。緋色と白い肌のコントラスに、黒が合わさることで一層艶かしい。ミハエルは、深く息を吐き出しながら、眼鏡を外して目頭を揉んだ。見間違いでは、なかったらしい。つまり、と腹の底に暗い澱が溜まっていくのが分かる。パレードの間中、アルトはこの格好で練り歩いていた、というのである。もちろん、アルトが自分から望んで腰元を露にしたのではないことは、分かっている。確かに、ずっと何かを気にしていたのも覚えている。それでも、とミハエルは強く歯を噛んだ。自分以外の誰かが、アルトのこの秘匿された白純の肌を見たかも知れないのだ。 さぁ、と風が吹き抜ける。 それは、ミハエルの澱を吹き飛ばすかのように冬の冷気を孕み、木々を揺らした。ハラハラと色付き始めた紅葉を散らす。 「・・・・・あ・・・・・」 紅葉は、眠るアルトを飾るように、その美しい体の上に舞い落ちた。髪に、袂に。そして、緋袴の上。よりにもよって、スリットから覗く白い肌を一層際立たせるように。 「頼むよ・・・・・」 思わず、ミハエルは小さく呟いた。これ以上、自分を試すような真似はしないで欲しい。ミハエルは、そっと手を伸ばした。これは、決して疚しい行為ではない。アルトを危険から遠ざける為、仕方のないことなのだ。震える指で、細心の注意を払って悪戯な紅葉を摘み上げる。 「っ・・・・んっ・・・・・」 小さく身じろぐアルトに、ミハエルは口から心臓が飛び出すかと思った。取り除いた紅葉で口元覆って、ミハエルはアルトの様子を凝視する。 「・・・・・姫?」 微かに空気を揺らす程度の声で、アルトを呼ぶ。だが、アルトの睫さえも動く気配もない。ミハエルは、ホッと息を吐いた。一応、ミハエルにその気がなくとも、目を覚ましたアルトが誤解する可能性は大いにある。いや、本人もずっと気にしていた袴の脇に、ミハエルが手を伸ばしていて、誤解しないアルトがいるならお目にかかりたいくらいだ。ふぅ、と肩の力を抜いた刹那。 カシャリ
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