シャッターの下りる音が響き渡る。ミハエルは慌てて自分の袂でアルトの袴を覆うと、音のした方を睨み付けた。同時に、ガサガサと草が揺れる。ミハエルは小さく舌を打った。どうせパレードだ、と武器を持たなかったのは、失敗だったかもしれない。

「誰だっ?」

 ミハエルは、意を決して声を上げた。だが、草はガサガサと音を立てるばかりで答えはない。チラリと視線を投げれば、この緊迫した状況下で、我らがアルト姫はまだ惰眠を貪っていた。肝が据わっている、というレベルではない。

「・・・・ごめんなさい。驚かせちゃいましたね」

 おっとりとした声とともに、魔女の仮装に身を包んだ女性が草を掻き分けて、紅葉の散る日本庭園に足を踏み入れた。

「ミーナ・・・・ローシャン伍長・・・・・」

 想像していなかった人物の登場に、ミハエルは思わずフルネームを喘いでしまった。だが、当のミーナはミハエルの反応など気に留める素振りもなく、黒目がちの瞳をニコニコと細めている。

「写真を撮らせて欲しいって、ずっと思っていて・・・・・」

 随分探し回ったのだ、とにこやかに言われてしまう。

「それは・・・・その、済みません」

 この場合、謝るのが妥当なのだろうか。ミハエルは、あまり見ないテンションの高いミーナの姿に、かなり面食らっていた。オペレーターズとの絡みは少なくないが、もう少しミーナは知的で落ち着いているイメージがあった。それが、ハロウィンという非日常の雰囲気に飲まれているのか、ぶっ飛んでいるように見える。

「でもでも、素敵な写真が撮れたんですよ〜」

 きゃー、と嬉しそうに悲鳴を上げるミーナに、ミハエルは背中に冷たい物が落ちるのを感じた。一体、どこから見られていたのだろうか。

「その写真、俺にも見せて貰って良いですか?」

 そう腰を上げようとして、何かに引っ掛かる。不思議に思って振り返れば、寒いのか、アルトは尻尾の一部を抱き締めるようにして眠り続けていた。ミハエルは肩を竦めて、ミーナに向かって手を伸ばした。下手にアルトを起こせば、話があらぬ方向に行ってしまいそうだ。

「えぇ、自分で言うのも何ですけど、綺麗に撮れたんじゃないかなぁって」

 ミーナは、微笑みを崩すことなくミハエルの正面に歩み寄ると、ホラと携帯の画面を見せた。

「・・・・へぇ・・・・・」

 笑顔のミーナと対象的に、ミハエルは真剣その物の眼差しでミーナの携帯を睨み付けた。ディスプレイに表示された画像は、丁度ミハエルがアルトの腰元に落ちた紅葉を拾い上げ、ホッと息を吐き出している瞬間だった。角度から、緋袴のスリットは映っていない。しかし、とミハエルは顎に指を掛けて考える。美しく艶かしい鬼の姿をしたアルトが、記録に残ってしまうのは、芳しくない。それが、自分ではなく他人であるという点が、酷くミハエルの執着を煽った。

「ミーナ伍長」

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