袂で袴の脇が隠れていることを確認して、アルトは立ち上がった。膝に付いた汚れを払って、腰に手を当てて憤然と少年の走り去った方向を睨み付ける。

「むしろ、姫の性別を正確に言い当てられる方が、将来心配だよ」

 お疲れ、とミハエルは手にしていたペットボトルをアルトに手渡した。

「これで終わりか?」

 姫じゃない、と眦を吊り上げるアルトにミハエルは気にする素振りも見せずに、そうだなぁ、と呟いた。

 パレードの最終目的地である大統領府で Trick or Treat と全員で叫び、 Happy Halloween の声と共に降り注ぐお菓子の雨を受けてお終いだと信じていたアルトが、その後参加した全ての子供たちに、巾着に詰め込んだお菓子を配る作業が残っていたと知った時の衝撃を何と表現すべきだろうか。行進している時だけでも、脇が見えてしまうのではないか、と神経を張り詰めていたのに。お菓子を配るということは、手を頻繁に動かさなくてはならない。誰かに気付かれてしまう可能性が高くなる。それでも、ノーと言えないSMS。苦肉の策として、アルトは一人膝を付いて、子供たちの目線に合わせて菓子を配ることにしたのだ。

 それが功を奏したのか、隣で菓子を配っているミハエルにさえ、脇については何の突っ込みもなかった。ホッと胸を撫で下ろしながら、アルトはペットボトルのキャップを捻じ切った。

「せっかくだから、もう少し静かな所に移動するか?」

 公園内は、子供を迎えに来た親たちでごった返していた。落ち着いて、喉を潤すことすらままならない雰囲気だ。

「確か、この公園って色んなタイプの庭があるんだったよな?」

 イングリッシュガーデンから枯山水まで、という話を聞いたことがある。

「さすがに枯山水は難しいと思うけどな」

 大統領府の隣に位置するこの公園は、何代か前のファーストレディーの趣味で、古今東西の庭を集めて造成されたらしい。それでも、枯山水の侘び寂びまでは理解されていないだろう。ミハエルは騎士のような仕草で、アルトに手を差し出した。

「日本庭園は奥にあるらしいから、行ってみようか?」

「その提案は悪くねぇけどな。残念ながら一人で歩けるんだよ」

 アルトは、パシンとミハエルの手を叩くと、カラコロと下駄を鳴らして歩き出した。

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