議事堂から大統領府までの距離は、決して遠くない。沿道の人々に手を振りながら、仮装した子供たちを列に加えながら、ゆっくりと列は進む。カランコロンと下駄の音を軽やかに響かせながら、アルトも笑顔を浮かべて歩いた。それでも、脳裏を占めるのは袴の脇。握り締めて隠し続けるのも不自然だろう、と袂で隠すようにしてはいるが、いつ何時捲れてしまうかと思うと、浮かべた微笑みが引き攣ってしまう。そんなアルトの視界に、一人の子供の姿が映った。真っ白いワンピースに白い羽。作り物の天使の輪を頭に載せた、可愛らしい女の子。だが、その顔に張り付いているのは不安だった。すぐ隣にしゃがんだ母親に何か言われているようだが、その表情が晴れることはない。むしろ、うっすらと涙を浮かべているようにも見える。 「あの子・・・・・」 ふと隣で響いたミハエルの声に、アルトは小さく頷いた。この笑顔が弾ける空間で、一人だけ沈んだ表情をしている姿に、ミハエルも気になったのだろう。 「・・・・あぁ」 皆と一緒にハロウィンを楽しみたいのだろうが、一人きりでパレードに参加することに不安がるのだろう。きゅ、と先端に星の付いたタクトを握り締めて、女の子は通り過ぎるパレードを見詰めている。アルトは袂を押さえるようにして、女の子の前で腰を屈めた。母親から離れることの恐怖に揺れる瞳に、安心させるように優しく微笑みかける。声を出しては、より怖がらせることになる、と判断して、アルトは視線だけで話しかけた。行こう、と手を差し出して、慈愛に満ちた柔らかな笑顔で誘う。すると、おずおずと小さな手がアルトの掌に伸ばされる。驚く母親にも笑みを閃かせると、アルトは女の子の手を握り締めた。優しく包み込むように握って、立ち上がる。見上げる女の子にもう一度笑みを零すと、それに応えるように天使が笑う。アルトは優しく頷くと、女の子の手を引いて列に戻った。 パレードは仲間を増やしながら、大統領府を目指す。女の子は、先程までとはうってかわった楽しそうな笑顔を弾けさせている。アルトに手を引かれて、タクトを振って。時々、ミハエルの尻尾を愛しそうに撫でながら、ニコニコとアルトを見上げる。アルトも視線に気付いて、笑顔を返す。その遣り取りを見ながら、ミハエルはふと思う。隣にアルトがいて、その間に小さな子供がいて。二人の楽しそうな笑顔を見て、自然に表情が綻ぶ。こんな時間を幸せと言うのかもしれない、と。
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「ありがとう、お姉ちゃん」 ジャック・オ・ランタンの模様が付いた巾着袋を受け取った少年が、嬉しそうに手を振る。それに答えるように笑みを閃かせると、少年も笑顔を見せて踵を返した。パタパタと走り去り、そして思い出したように振り返る。アルトが穏やかな微笑みを湛えて手を振れば、少年ははにかんで手を振ってみせる。そうして、少年が公園の外に出て行くのを確認すると、その艶やかな紅唇からゾッとする程低い声を吐き出した。 「だぁれがお姉ちゃんだ。誰が」 |