腰を屈めて拾おうとするアルトを、ミハエルは珍しく強い口調で遮った。チラリと視線を足元に落とせば、そこに転がっている物が見える。アルトの見間違いでなければ、それは女性物の髪飾り。女性物、という言葉にアルトは顔を顰めた。胸がズキリと音を立てる。
「あ・・・・・いや・・・・・・すまん・・・・」
 アルトの曇った表情に、ミハエルはバツが悪そうに謝罪の言葉を口にした。アルトは無言で首を振ると、立ち上がった。床に落ちた袋は、いかにも贈答用と言わんばかりの可愛らしい細工がしてある。アルトは目を伏せると、きつく拳を握った。きっと、あれは大事な贈り物なのだ。アルトにも触れられたくない程、大切で狂おしいまでの。
胸が痛い。
もしかしたら、ミハエルはアルト以外の見舞いを待っていたのかもしれない。あぁそうだ、とアルトは薄く笑う。甲斐甲斐しく世話を焼くクランへのプレゼントだと言われれば、得心いく。ならば、とアルトは唇を噛み締めた。
「ミシェルの元気そうな姿を見られて良かった。オレ、帰るよ」
 どうしてミハエルと一緒に杏仁豆腐が食べられると思ったのだろうか。寂しそうに笑うアルトに、ミハエルは焦った。悲しいかな、今までの自分の行いが祟ってか、アルトに百パーセントの信頼を得られていないのは事実だ。余計なプライドが邪魔をした。ミハエルは自嘲する。アルトに気持ちの全てを持っていかれた時点で、そんなもの無用の長物。
「待てよ。せっかく自分も食べるつもりで買ってきたんだろう?」
 そう言いながら、ミハエルはベッドから降りると髪飾りと白い袋を拾い上げた。
「次がつかえてるんなら、ハッキリ言えばいいじゃねぇか」
 髪飾りと袋に付いた埃を払うミハエルの姿が、滲んで見える。アルトは俯いた。ミハエルが大切そうに扱う誰かを見ているようで、いたたまれない。今すぐ逃げ出してしまいたいのに、なぜか足は縫い止められた様にピクリとも動こうとしない。
「・・・・・・・これ、さ。アルトの誕生日プレゼントのつもりだったんだ」
 ドサリとベッドに座り込んで、ミハエルは照れくさそうに鼻の頭を掻いて見せた。
「姫に似合いそうだな、と思って買ったんだけど・・・・・・いらないよな、女物なんてさ」
 プレゼントとは、相手に喜んで貰って意味がある。それを、自己満足の為だけで買求めた物を、プレゼントとしようとしていた自分が情けなかった。誕生日も過ぎちゃったしな、と自嘲気味に笑うミハエルを呆然と見詰めて、アルトは改めてミハエルの手の中の簪を見た。銀色の細いボディに、涼しげな色のラインストーン。大切そうに扱うそれが、自分へのプレゼントだと言うのか。本当だったら、誰が女だ!と激昂するところだが、何故だが凄く心に染みる。グスンと鼻を啜ると、アルトはミハエルの手から簪を取った。
「・・・・・・姫?」

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