アルトは無言のまま簪を唇に挟むと、組紐に指を掛けた。知ってしまえば単純なこと。アルトは自分に焼餅を焼いたに過ぎない。
 あれ程理想の女性像を演じながら、その実本物の女にはなれないアルト。
 あれ程女性関係が派手だったミハエル。
 いつか本物の女性に取られる日が来るのではないか。そんな不安がアルトの心の底に、漠然と横たわっていた。だが、と長い髪がバサリと解くと、手早くハーフアップにして纏め、簪を挿す。
「・・・・・・・・・・ぅか・・・・・」
「え?ゴメン、もう一回」
 頬を染め、フイと顔を背けてアルトは早口で繰り返した。
「・・・・・・似合うかって聞いてるんだよ」
 何度も言わせるな馬鹿、と吐き捨てるアルトに、ミハエルはパァと表情を明るくした。腕を伸ばして、アルトの頬に指を這わす。恥ずかしそうに視線を合わせるアルトに、ミハエルはこれ以上ないほど甘い笑顔を閃かした。
「俺の見立てどおり。よく似合うよ」
 アルトの顔といわず耳や首、果ては腕に至るまで真っ赤に染まる。アルトはストンと椅子に腰を落とすと、視線を彷徨わせた。そして、何かを思い付いたのかチラチラとミハエルを伺うように口を開いた。
「・・・・・・来月、夏祭りがあるんだけど、ミシェル、行くか?」
 簪と助けてもらった礼を兼ねて、と可愛い言い訳を付け足すアルトに、ミハエルは当たり構わず抱き締めた。
「ちょッ・・・・・何考えてるんだよ!」
 公の場で男同士が熱い抱擁なんて、白い目で見られるだろう。だが、ミハエルはお構いなしに暴れるアルトをぎゅうぎゅうと抱き締める。
「だって姫から初めてデートに誘われたんだぜ?嬉しくて傷口が開きそうだよ」
 腕から伝わるアルトの体温。あの恐怖はもう二度と御免だ。
「デートじゃねぇよっ。礼だって言っただろうが」
 口では離せと言いながら、それでもぎこちなく抱き返してくるアルトが愛しくて、ミハエルは本当に傷口が開いてしまっても良いような気がした。


Fin   

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