ミハエルには分かっていた。どうせアルトは、ミハエルの怪我を自分の過失だと考えているのだろう。そんな筈ないのに。危険を承知で、自分はアルトを助けに行っただけだ。あれは、誰の為でもない。アルトの無事を確認したかった自分のエゴだ。どうしたら、本当のことなど言えるだろうか。
「・・・・・・怪我の具合だよ」
 眉根に皺を寄せて、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。あぁ、とミハエルは秘かに天井を仰いだ。ここが病室でなかったら、いや一人部屋だったら自分はどんなコトを仕出かしただろう。本音はどこでだってアルトに触れていたい。ましてや、こんな表情をされたらキスして抱き締めたくなるのが男の性。それに、本当に無事なアルトの姿を確認するのは今日が初めてなのだ。傷はないか、とか服を引き剥がして、変わりない体温を全身で確かめたい。
「外傷のせいで熱っぽいだけで、他はなんともないよ」
 実は寝返りを打つと痛い。だが、そこまで言う必要もない。ミハエルは柔らかく笑って、アルトを真っ直ぐ見詰めた。泣きそうな琥珀色の瞳。他人がいる手前、アルトは必死に涙を堪えた。唇の裏を噛み締めて。
「・・・・・・・・・ミシェル・・・・・ごめん」
 口の中に広がる鉄の味。アルトは搾り出すように俯いた。サラサラと長い髪が肩口から滑り落ちて、アルトの顔を隠してしまう。震える肩を抱き締めたい衝動をどうにか押さえ込んで、ミハエルは優しい口調でアルトを諭す。
「別に、アルトが悪いわけじゃないよ。これは、俺の自業自得。ツメが甘かったんだよ」
 それ以外の原因はない。だから、ミハエルは気を取り直すようにテーブルの上を片付けると、保冷バッグから透明な器を取り出した。テーブルの上に置くと、プルンと震える。
「杏仁豆腐かぁ。たまには良いかもな」
 器に付いた水滴が、何とも涼しげだ。実際、ナナセの気遣いのお陰で杏仁豆腐はひんやりしている。
「姫、気遣いはありがたいんだけど、俺二つは無理」
 量を食う方だ、と自覚はあるが甘い物は別。本音を言えば、一口も怪しい。それだけ、ミハエルは甘い物が苦手だった。そんなこと、アルトは百も承知のはずである。なのに、敢えてスイーツを選んだ所に意味があるのだろう。
「っ・・・・・・一つはオレの分だ」

TOP   BACK   NEXT