夏らしい涼しげな愛玉子に、果肉たっぷり濃厚マンゴープリン。娘々特製、ぷるぷる杏仁豆腐。
カナリアやクランの話に因れば、ミハエルに食事制限などは出ていないらしい。それでも、病院で管理された栄養バランスを崩して良いわけではない。それに、とアルトはショーケースを凝視する。ミハエルは、あまり甘い物を好む方ではない。それでもアルトが娘々のデザートを選んだのには、一応ワケがあった。クランにひたすらリンゴを食わされているミハエルに、果物の見舞いも中々嫌がらせめいているような気がしたのだ。それにツルンとした喉越しなら食べやすかろう、と自分が病気をした時を思い出しての選択だった。別の思惑など、ちっともないのだ。
そう、ちっともない。
「じゃぁ、コレを二つ」
 アルトはナナセに向かって、ショーケースの中身を指差した。ナナセは保冷バッグを用意すると、アルトの指差した商品を取り出す。
「保冷剤、多めに入れておくね」
 少しでも冷たい方が美味しい、とナナセは保冷バッグがパンパンになるくらい保冷剤を詰め込んだ。会計を済まして、アルトに商品を手渡す。と、誰が見ても美しいと感嘆を漏らす同級生は、恥らい綻ぶ花のように微笑って見せた。
「サンキュ、な」
「ミシェルくんによろしくね」
 アルトの笑顔の可愛らしさを如何にランカに伝えるか、ナナセは脳内ボキャブラリーのデータベースを検索しながら、踵を返すアルトに手を振るのだった。

◆◆◆◆◆

 リノウムの床。優しさを意識した、淡いピンク色に塗られた壁。
つい先日、アルト自身も検査を受けた病院に、今日は見舞いとしてやってきた。受付でミハエルの病室を確認し管理簿に記名すると、アルトは使用者の少ない階段を登り始めた。
正直、どんな顔をしてミハエルに会えば良いのか分からなかった。あの絶望的な状態で、ミハエルがランカを連れて来てくれた時は、素直に助かったと思った。だが時間が経てば経つ程、一人では何も出来なかった無力感と、ミハエルには敵わないという現実に、焦燥感が募る。それだけではない。ミハエルが入院するに至った理由もまた、アルトを苦しめた。もしも、アルトがあの状況を一人で切り抜けることが出来ていたら、ミハエルは負傷せずに済んだのだ。検査から戻った一人の部屋は想像以上に広くて、アルトに余計なことを考えさせた。

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