「・・・・・今更過ぎるだろう」
 それは、ナナセやランカがアルトの誕生日で盛り上がっていた頃、何となく買い求めた物だった。否、女性経験は豊富な反面、一人の人物に執着し付き合うなど初めてのミハエルは、少しばかりウキウキしながらアルトに似合いそうな物を物色し、その白い項との美しさに一目惚れして購入したのだ。買った当時は舞い上がって思いつきもしなかったが、この明らかに女性物の簪を貰ってアルトが喜ぶ訳がない。むしろ、顔を真っ赤にして激怒するだろう。
「不幸中の幸いだったかもしれないな」
 アルトの反応を見られなかった未練がない訳ではないが、ミハエルは割り切るように簪を袋に戻した。そして、テーブルの端に押しやると、ペンケースからシャーペンを取り出した。

◆◆◆◆◆◆

 ディナーの時間には少し早い娘々のショーケースの前で、アルトは風呂敷包みを抱えて悩んでいた。幸い、お茶をするにも微妙な時間で、食事をしている客も少ない。美しい眉間に皺を寄せて、本気でうんうん唸っている同級生に、ナナセは頬を緩めた。しかし、アルトが一人で店を訪れるなんて、珍しいことでもあるものだ。
「早乙女くん一人って、珍しいね」
 思わず言葉に出すと、アルトはショーケースから顔を上げてナナセを見た。眉間の皺は相変わらずだ。
「ルカを誘ったんだけどな、忙しいらしくてさ」
 アルトとシェリルを救うため、かなりの無茶を通してくれたらしい。ランカ伝いに聞いただけで、本人に確かめることも感謝の言葉を口にする時間も取れないほど、ルカは忙しそうにバタバタしている。ナナセも、あぁ、と手を打った。ランチの時間も、難しそうな表情で猛然とパソコンのキーボードを叩いていた。
「じゃぁ、その包みの中身って・・・・」
「ミシェルの見舞い。適当に雑誌を見繕ってみたんだ」
 店で紙袋に入れて貰ったのだが、その強度が心許なくて手持ちの風呂敷で包み直したのだ。正直、それらがミハエルの好みに合致しているのか、アルトには判断しかねた。女性の守備範囲もマクロなら、趣味の範囲も幅広い。尤も、話題が豊富でなくては女性の気も引けまい。
「・・・・っ」
 不意に胸の辺りがざわつくような気がして、アルトは再びショーケースを覗き込んだ。

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