どうしよう、とチラリとミハエルを盗み見れば、少し寂しそうな瞳にぶつかる。あぁ、とアルトは観念するようにため息を吐き出した。そんな瞳をされて、アルトに背を向ける勇気はない。否、ミハエルの『お願い』を、どうしてアルトに断ることができようか。すぐにミハエルにほだされてしまう自分。それが少し嬉しくて、少し悔しい。

「クリスマスだからなっ」

 自分に言い訳をするように呟いて、アルトははにかみながらミハエルの腕に自分の腕を絡めた。その時、視界の端に映ったミハエルの表情は、これ以上ないくらい甘く柔らかな笑顔だった。アルトしか知らない、本当のミハエルの笑顔。それが見られるのなら、少しくらい良いかな、なんてアルトはぎゅっとミハエルの腕にしがみつくのだった。

◆◆◆◆◆◆

 マンションに着くと、珍しくミハエルがキッチンへと直行した。コートを脱ぎながら、手伝おうか、と声を掛けたが返事はない。アルトは首を傾げた。いくらクリスマスで世間が浮かれているからって、ミハエルまで浮かれているなんてことはあるのだろうか。

 蛇口を捻りながら、アルトは鏡を覗き込んだ。自分から腕を絡めた気恥ずかしさや、ちょっと大胆に往来で腰を抱かれた胸の高鳴りで、まだ顔が少し赤い。

 今日のミハエルは、何を考えているのだろうか。アルトにとって、クリスマスが特別だと思うのは降雪が見込めるからであって、それ以上の意味はないはずだ。それでも、ミハエルの少々強引とも言える積極的なアプローチに鼓動が早くなる。

「あぁ、雪降らねぇかなぁ」

 恋人たちにとってクリスマスは一大イベントだ、と鼻息を荒くしていたボビーを思い出して、アルトはブンブンと首を振った。わざとらしく大きく呟いて、アルトは火照った顔を静める為に水で顔を洗った。

「アルト、準備できたよ」

 コンコンと扉をノックされて、アルトはパタパタと雫を零しながら振り返る。

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