「おい、シャンパンは買ってないのか?」

 いくらミハエルに力があるとは言え、どう見ても袋にシャンパンのボトルが入っているようには思えない。それに、透けて見えるのは食べ物ばかりだ。

「あぁ、シャンパンなら今頃冷蔵庫の中でキンキンに冷えてる筈だぜ」

 パチンとウィンクを飛ばすミハエルに、アルトは首を傾げた。果たして、そのような物が冷蔵庫にあっただろうか。料理を担当しているアルトの方が、結果として冷蔵庫内の在庫状況に詳しいはずである。しかし、シャンパンボトルが封入されていた覚えがない。もしミハエルの言っていることが真実なのであれば、ボトルの存在に気付かない方がどうかしている。いくら、鈍いと評されるアルトでも、気付かないわけがない。それでも、まったく記憶にないのは、どうしたことだろう。

「アルト」

 扉のポケットの部分だろうか、と難しい表情で今にも唸りそうにアルトに、ミハエルはコートのポケットに手を突っ込んだまま腕を突き出した。

「・・・・・・え・・・・・っと・・・・・?」

 意図が分からずに、アルトはミハエルの顔を見た。エメラルドグリーンの瞳が、真っ直ぐアルトを見詰めている。無言で、それでいてガラス越しの瞳に絶対的な力を宿して、ミハエルは何かを催促する。腕を揺らす動作に、アルトは息を呑んだ。もしかしたら、と窺うようにミハエルを見れば、極上のハニースマイルを浮べて頷いた。どうやら、意思の疎通が図れたらしい。それでも、とアルトは躊躇った。

 自分からミハエルに腕を絡めるなんて、恥ずかしくてできるわけがない。

 そんな言葉を口にすれば、ミハエルは笑うに決まっている。先程まで腰を抱かれていた人間が、腕を組むぐらいで何を恥ずかしがるのか、と。確かに、腕を組む以上に大胆なことをしていたのは事実だ。それでも、それはミハエルからの行為であり、アルト自身が積極的に求めたわけではない。だが、今回はミハエルの腕に自ら手を伸ばさなくてはならないのだ。

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