闇よりも深い漆黒の髪を翻して、アルトはミハエルに食って掛かる。どんなにアルトが嫌がっても、ミハエルが自分を『姫』と呼ぶことをやめる気配はない。毎度毎度、生産性のないやりとりだと思う。それでも、アルトは一々正すことをやめようとは思わなかった。

「確かに、あんまり寒いのは得意じゃないけどよ・・・・・。雪が降るのはちょっと別格というか・・・」

 どうせガキだと言われるのだろう、とアルトは小さく頬を膨らました。そんな恋人の可愛らしい仕草に、ミハエルは深いため息を吐き出した。白い吐息が立ち上る。

「あ!僕、迎えが来たようなので、お先に失礼しますね」

 そう言ってルカは頭を下げると、パタパタと道路に面した通りを急ぐ。果たして、とミハエルは小さく首を振った。ルカの口にしたことは事実なのか。それとも、空気を読んだのか。恐らく両方だろうな、とミハエルはルカの後姿を見詰める。きっと、早くこの場を離れたくて迎えの連絡を心待ちにしていたのだろう。後輩の気遣いを有難く頂戴して、ミハエルはアルトの体を抱き寄せた。

「ちょっ・・・・・」

「俺たちも帰ろうか、アルト?」

 恥ずかしそうに逃げようとする恋人の顔を覗き込んで、ミハエルは優しく微笑んだ。鮮やかなホログラムの光を浴びて笑うミハエルは、まるでキラキラと輝く蜂蜜のように甘い。アルトは頬を染めると、コクンと小さく頷いた。

◆◆◆◆◆◆

 メトロを降りて改札を出たアルトは、吹き付ける風にヒッと首を縮こませた。車内の暖房ですっかり今日の寒さを忘れていた体には、骨に沁みるほど堪える。ミハエルは震えながらも、それでも空を見上げるアルトに小さく笑みを零すと、肩を並べスッと細い腰に手を回した。

「っ・・・・ミシェルッっ!」

 人の目がある公道で何をする、とアルトは眦を吊り上げてミハエルを睨み付ける。だが、ミハエルはアルトの耳元に唇を寄せると、アルトに周りを見るように囁いた。

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