全てが人工物で作られているフロンティア。気象でさえ人間の手によって管理され、年間を通した計画の元運用されていた。だが今日、クリスマスイブは違う。毎年この日は、気象管理センターの茶目っ気により、フロンティアのどこかで雪が舞うようなっていた。どこに雪が降るのかは、降るまでのお楽しみ。今年こそは、と誰もが期待を抱くように、クリスマスイブは船団の全てが凍て付くほどに冷やされる。一年で一番寒い日だと言っても過言ではない。そんな日に、かつてのシェリルのファーストライブのように控え室なしで寒空の下で準備しろ、などと言われていたら、と想像するだけで肝が震える。熱気渦巻くライブ会場を出て、今年一番の冷え込みの中着替えるなんて自殺行為以外の何物でもない。幸い、今回はランカからの口添えもあって、こうして控え室を用意してもらえる次第になったわけである。

 ライブ第一夜は無事に成功を収めた。その後、簡単なダメ出しと打ち合わせを兼ねたささやかな打ち上げが行われ、散会となった。本格的な打ち上げは、明日の夜公演を終えてからだ。

 三人はコートの襟を立てると、外に出た。深い闇の向こう、透けて見える星空。吐く息は白く、そのまま凍り付いてしまうのでは、と思いたくなるほど寒い。アルトは長い髪を揺らして、空を見上げた。そろそろ時計は日付変更線を跨ごうとしている。雪は、どのように降るのだろうか。

「姫は雪が見たいの?」

 黒いカシミヤのロングコートの前を掻き集めながら、ミハエルは恋しそうに空を見上げるアルトに声を掛ける。

「あぁ。降ってる所を見たことがないから・・・・・」

 幼い頃、目が覚めると庭にうっすらと雪が積もっていることはあったが、ヒラヒラと舞い落ちる雪を見た記憶はない。足を止めて目を凝らすアルトに、ミハエルとルカは顔を見合わせた。アルトのその切なそうな表情は、月を恋しがるお姫様その物。ここにいるのが、ミハエルとルカだから良いようなもの。ミハエルはポケットに突っ込んだ手を硬く握り締めた。世が世なら国を滅ぼすほどの美貌を持ちながら、まったく無頓着のアルト。かつて女性として生きることを強要され、色香を醸すことさえ是とされたアルト。無防備に無意識に、不意にその一端を垣間見せる。それはミハエルの心臓を鷲?みにし、同時に得も言えぬ苛立ちを覚える。ミハエルはざわつく心を落ち着けるように、眼鏡のブリッジを押し上げた。

「姫、寒いの苦手なのに?」

「姫って呼ぶな!」

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