それが、雪であると認識すると同時に、アルトはバルコニーへと走っていた。もどかしそうに解錠し窓を開けると、氷のような風が漆黒の髪を翻す。それでもアルトは躊躇わず、そのままバルコニーへ出た。 「・・・・雪・・・・・」 宇宙の深い闇を透かした空から、まるで鳥の羽のように柔らかく純白の雪が降り続ける。バルコニーから見える街はうっすらと雪化粧を纏い、まるで見知らぬ世界だ。音もないのに、刻一刻と変わり行く町並み。先程までの自己嫌悪さえ白い雪に埋もれてしまいそうなくらい、アルトは降り積もる雪に魅入っていた。 ◆◆◆◆◆◆ リビングの扉を開いた瞬間、濡れた髪を撫でる冷気にミハエルは思わず体を竦めた。何事かとリビングを見回すと、バルコニーへと続く窓が景気よく全開になっている。 「マジかよ・・・・」 ミハエルは思わず呟いた。シャワーを浴びて汗の滲む体に、今年一番の冷え込みは堪えるとか、そんな生易しい言葉では言い尽くせない寒気。ミハエルは粟立つ素肌に、急いで手にしていたスウェットを着込んだ。明日もライブがあるのに、風邪を引くわけには行かない。ミハエルは、ソファの上で丸まっている毛布を肩から羽織ると、薄着のままバルコニーで空を見上げているお姫様に肩を竦めた。 「・・・・ったく」 世話が焼ける、と口の中で呟きながら、ミハエルは神々しいものを見るかのように敬虔な表情を浮べた。艶やかな黒髪の上に散らばった白い雪。まるで、天使の羽で飾られたよう。うっとりと目を閉じて、雪の洗礼を受けるようなアルトの姿に胸が詰まる。ギュッと毛布を握り締めて、ミハエルは殊更感情を平坦に装った。乾いた唇を舌で濡らして、冷え切った夜空の下へ踏み出した。 |