「あのさ・・・・アルト・・・」

「カルパッチョ美味いぞ!」

 陽気なアルトの声に、ミハエルの言葉が沈む。駆けつけ三杯の勢いでシャンパンを煽ったアルトは、完全に出来上がっていた。元々強くない癖に、口当たりの良さだけを理由に飲むからだ。勧めたミハエルにも責任の一端がない、とは言い切れないが、もう少し酒の飲み方を覚えても良い頃ではないだろうか。

「俺がいないところでは飲むなよ」

 白い頬をほんのり染めて、とろりと潤ませた瞳でアルトは不思議そうに首を傾げる。

「別にオレの勝手だろ?」

 あぁもぉ、とミハエルは頭を掻き毟った。一度思い知らせてやるべきなのだろうか。いやいや、とミハエルは沸き上がる劣情を押さえ込んだ。グラスに残ったシャンパンを一気に煽って、ミハエルは大きく息を吐き出した。競り上がる緊張を飲み込んで、紡ぐべき言葉を唇に乗せる。

「勝手じゃねぇよ。・・・・・アルト、あのさ・・・・・」

 手の中のグラスを弄びながら、次の言葉を探す。その時ポスンと腕に重さを感じて、ミハエルは首を巡らした。

「・・・・・随分とお約束過ぎじゃないか?」

 そこには、ミハエルに体重を預けてすぅすぅと寝息をたてるアルトの姿があった。長い睫が、白い頬に影を落としている。ミハエルは肩を竦めると、シャンパンの残るグラスをアルトの手から取り上げ、静かにテーブルに置いた。

「鈍いくせに、無駄に防御本能高すぎだろう・・・・」

 無防備に眠り込むアルトに自嘲気味に笑うと、ミハエルは汗でぐっしょりと濡れた掌をじっと見詰めた。それは、初めて一人で仕事をこなした時よりも、濡れていた。

TOP   BACK   NEXT