ミハエルは走った。深夜であるとか、誰かの迷惑になるとか考えにもなかった。シャワーもそこそこに、ミハエルはアルトが待つ自室へと急ぐ。アルトの誕生日を祝いたいが為に、ミハエルは随分と無茶をした。異常とも言える集中力で仕事を片付け、ルカが聞いたら泡吹いて倒れるような速度で、機体への負担などお構いなしに帰路を急いだ。お陰で、明日の夜に帰還の予定が丸一日繰り上げられたのは、まったくもって喜ばしい。日付変更線を過ぎてしまったことを嘆くのは、贅沢だ。 アルトは、もう寝ているだろうか。自分の姿を見たら、どんな反応をするのか。想像するだけで、笑みが零れてしまう。ミハエルは、そっと扉を開けた。やはり既にアルトは寝ているのか、部屋の中は案の定暗かった。ミハエルは、感覚を頼りに部屋の中を進む。そして、慣れた手付きでアルトのベッドのカーテンを指で払った。 「・・・・姫?」 そこにあったのは、乱れた布団だけ。アルトの姿はどこにもない。アパートに帰ったのか。いや、とミハエルは首を振った。今日も今日とて、アルトはみっちりとオズマに扱かれている筈である。そう、千足まで帰る気力も体力もないに決まっている。何より、アルトは遅刻ギリギリに起きようとも、形だけでも布団の乱れは直すのだ。こんな風に、たった今這い出しました、というまま部屋を離れることはない。 「だとしたら・・・・」 トイレだろうか。だが、とミハエルは腕を組んだ。暗闇の中、確かに人の気配はするのだ。まさかな、と呟いて、ミハエルは二段ベッドの上段へと続く梯子に手を掛けた。小さく軋ませ梯子を上り、闇に慣れた目で自分のベッドを覗き込む。 「っ・・・・アルトっ・・・・」 そこにはミハエルの布団に包まって、くぅくぅと寝息を立てるアルトの姿があった。しかもその腕に抱き締めているのは、ミハエルの枕だ。ミハエルは口元を手で覆った。 「っ・・・・本当に・・・・」 自分の出張が分かった時、アルトは寂しいという言葉の意味を知らないかのように、驚くほど素っ気ない態度だった。なのに、実はこっそりミハエルのベッドに潜り込むほど寂しかったなんて。あぁもぉ、とミハエルは暗い天井を仰いだ。耳まで真っ赤になっているのが分かる。このお姫様は、どこまで自分を骨抜きにしてくれるのか。ミハエルは笑みを零すと、そっとアルトの隣に体を滑り込ませた。そして、背中からアルトを抱き寄せると、その滑らかな黒髪に口付ける。 「遅くなってごめんな。・・・誕生日、おめでとう」 ちゅ、と小さく響いた音に、アルトは眉根を寄せた。背中から包む覚えのある温もり。気のせいだろうか、とアルトは首を巡らせる。ミハエルは、明日にならなければ帰ってこないのだ。夢でも見ているのだろうか、とアルトはボンヤリと呟いた。 |