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アルトの喉が、ゴクリと音を立てる。それでも、気恥ずかしさに首を振れない。意地っ張りだなぁ、とミハエルは笑う。
「じゃぁ、間接キスにならなければ良いんだろう?」
そう言うや否や、ミハエルは再びペットボトルに口を付けた。そのまま水を口に含むと、アルトの唇に濡れた唇を重ねた。
「んっ・・・・・んぅ・・・・・」
口移しで冷たい水が注がれる。水を欲していた身体は、アルトの意思と反して従順にミハエルの口付けを受けた。冷えた水と熱いミハエルの舌と唇。コクリと喉を鳴らして水を飲み干して、そのまま柔らかい舌の愛撫に背筋がゾクリと震えた。
「・・・・んっ・・・・」
チュッと音を立てて離れた唇に、アルトは得も言えぬ浮遊感を覚えた。頭の芯が痺れているような感覚。
「・・・・・・・ハァ・・・・・・」
熱い吐息を漏らすアルトに、ミハエルは唇を歪めた。
「姫、もっと欲しい?」
スッと前髪が触れ合う程近く入り込まれた瞬間、アルトは最期の一線でミハエルを押し退けた。ペットボトルを引っ手繰ると、力いっぱい蹴っ飛ばす。
「ふざけるのも大概にしろよなッ!」
熱に揺らめく翡翠色の瞳の妖しさに、ミハエルに惹かれる女性の気持ちが分かる気がした。否、分かりたくもない。
ゴロリと床に転がるミハエルに一瞥をくれると、アルトは長い髪を翻してトレーニングルームを後にした。イライラを忘れる為に走ったのに、結局ミハエルに良いようにからかわれて、怒りは頂点にまで達してしまった。最早、修行僧のように水に打たれるしか雑念を払う術はないだろう。
「あぁ、クッソ!」
思い切り舌を打ち、アルトは夜中であることを忘れて思わず叫んでいた。
「ミシェルの大バカヤロー」
◆◆◆◆◆
微かに聞こえてきたアルトの雄叫びに、ミハエルは床に転がったまま目尻を下げた。手の甲で唇を擦りながら、耳の先まで真っ赤にして去っていくアルトの姿を思い出して、ミハエルは小さく笑う。
「・・・・・ホント、可愛いよなぁ。アルト姫」
濡れた唇をペロリと舐めて、ミハエルは誰もいないトレーニングルームで声を出して笑った。
Fin
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