「・・・・・一体?」

 アルトとルカは顔を見合わせた。気のせいかと思いたかったが、その集団は間違いなくアルトたちを目指している。

「キャッチセールスですかね?」

「新手の新興宗教だろう」

 危機感のない言葉を口にしながら、二人は警戒していた。だが、それは一瞬にして徒労に終わる。

「待たせたな、アルト。ルカ」

 人垣の中心から、聞き慣れた声が聞こえた。集団を押しのけるように、ファーの付いた黒いコートを羽織り、黄色みを帯びた暗緑色のマフラーを合わせたミハエルが現れる。残念そうに去っていく集団を見送る姿に、アルトは唖然とした表情を向けた。

「悪かったな。ちょっと囲まれちゃって・・・・・」

 嫌味だろうか。

「アイドルか、お前は」

 目を細めて呆れ返るアルトに、ミハエルは悪びれることなく笑う。

「そうだな。平和になったら退役して、ランカちゃんの事務所に拾ってもらうのもアリだな」

「芸能の世界を舐めんな」

 白いもこもこダウンジャケットの上で、不機嫌そうに黒髪が跳ねた。ミハエルは浮かぶ笑みを噛み潰すと、じゃぁ、と二人に声を掛けた。

「早速、目的を果たすとしますか」

 アルトたちを促して、ミハエルは店へと向かって歩きだした。その背中を追いかけるアルトの耳に、女性たちの黄色いため息やヒソヒソ声が次々と飛び込んでくる。アルトは唇の裏を噛みながら、それでも何事もないかのような表情で店へと入って行った。

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