不意に強く抱き寄せられて、アルトは長い髪を揺らしてミハエルを見上げた。少しだけ表情を曇らせている恋人に、アルトは首を傾げた。寒いのだろか。 「ねぇ、姫。小腹減らない?」 お約束どおり、姫じゃねぇし、と返してアルトは考える。言われてみれば、少々空腹を感じるような気がする。何せ、ライブ後の打ち上げ(小規模版)の時にオードブルを二口三口摘んだ程度だ。アルトはともかく、大食らいのミハエルには小鳥の餌も同然だっただろう。 「あぁ、ちょっと空いているかもな」 神妙な表情で腹を摩る仕草をするアルトに、ミハエルは頬を緩める。時々、アルトの仕草は子供のようで可愛らしい。本人の前でそんなことを口にすれば、思いっきり否定されるのは分かりきった未来だ。ミハエルは喉元までせり上がる言葉を飲み込んで、アルトの琥珀色の瞳を覗き込んだ。 「ちょっとしたつまみとシャンパンは如何ですか?」 一瞬、ミハエルの言葉の意味が分からずに、アルトは首を傾げる。 「本格的なクリスマスパーティーは明日にするとして、シャンパンで乾杯だけでもしようぜ?」 そう言って、ミハエルは通りかかったデリを指差した。クリスマスイブだからだろうか、随分遅い時間まで営業しているものだ。ふと関心しかけて、アルトは慌てて店に入ろうとするミハエルの袖を引っ張った。 「つまみなら作るぞ?」 果たしてアルトの作るつまみがシャンパンに合うかどうかは別だが、何もわざわざ買う必要はないだろう。しかし、ミハエルはウインク一つでアルトの言葉を封じ込めてしまう。 「アルトの手料理以上に美味い物がないのも知ってるけど、たまには手抜きしても良いんだぜ?」 骨の髄まで叩き込まれた良妻賢母振りに、ミハエルは舌を巻いた。本当にパイロットにしておくには惜しい人材である。 |