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言えない、言えるわけがない
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「そのリンゴ、どうしたの?言えないの?なら、私はそれを貰えない」 冷たい声が高い天井の聖堂に響く。それは、拒絶の言葉。杏子が何か言うより先に、クルリとさやかのスカートが翻る。そのまま、コツコツと靴音が遠ざかる。その後姿を見詰めながら、杏子は砂を噛むようにリンゴを齧った。
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袋いっぱいに詰まっていたリンゴを全て食べ尽してから、杏子は苦い思い出しかない聖堂を後にする。どうして、言葉は響かない。はぁ、と深いため息を月ながら振り返る。焼けて朽ち果てる、かつての楽園。 「それを壊したのは・・・・・・」 ギリリ、と歯を食い縛る。次の瞬間杏子のお腹から、きゅるる〜、と情けない音が漏れた。どうしたって届かない空虚感が、空腹をもたらしたのだろうか。あれ程のリンゴを食べたのに、とは考えてはいけない。何しろ、魔法少女はお腹が空くのだ。それに、デザートは別腹と言うではないか。杏子は握り締めた拳を開くと、お腹に力を入れて晴れやかに笑って走り出した。向かう先は決まっている。虚脱感を忘れさせてくれて、お腹を満たしてくれる所。佐倉杏子にとって、かつての楽園の次に好きな場所。それを考えるだけで、杏子は可愛い八重歯を見せて笑った。
◆◆◆
買い物客で賑わう商店街に着いた杏子は、アーケードの入り口で腕を組んだ。 「さぁ、今日は何を食べようかな?」 ジャンボ餃子か、大盛りカレーか。そう言えば、最近ハンバーグを食べてない。 杏子は商店街を歩きながら、キョロキョロと辺りを見回した。呼び込みをしている八百屋に、暇そうな本屋。その前をスタスタと通り過ぎて、杏子は飲食店が軒を連ねる場所で足を止めた。ゆっくりと首を巡らして、今日のターゲットを品定め。 その次の瞬間。 店という店から従業員が出てきたかと思うと、そのままガラガラとシャッターを閉めてしまうではないか。次々と閉まるシャッターに、杏子は何が起きているか分からなかった。ただポカンと立ち尽くしたまま、次々と閉店の体を取る飲食店たちを見詰めるしかできなかった。 そして、漸く杏子が我に返った時には、周囲はまるでゴーストタウンの様だった。遠くに聞こえていたはずの八百屋の呼び込みも、威勢の良い魚屋の声も聞こえない。活気に満ち溢れていた商店街からは、客の姿が消えてしまったかのように静まり返っている。まるで、と杏子は胸元を握り締めた。 「まるで、魔女の結界の中のようね」 不意に響いた涼やかな声に、杏子は弾かれるように振り向いた。そこには、長く艶やかな黒髪を気だるそうに掻き上げる、暁美ほむらの姿があった。 「っ・・・・・・お前・・・・・・・」 いつから、と喘ぐように漏れた杏子の声を華麗に流して、ほむらは歌うように言葉を紡ぐ。 「この辺りには、それはそれは有名な賞金稼ぎがいるのですって?」
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