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きょうはニャンの日
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「まぁ、寂しいとは言え三日だから、我慢はするけどね・・・・・」 ツーマンセルが基本なのだから、アルトをパートナーに選んで欲しかった、とミハエルは肩を竦めて笑う。アルトはベッドに転がったまま、ミハエルの言葉に盛大なため息を吐き出した。 「心にもないこと言うなよ・・・・・」 今のアルトの実力では、ミハエルと二人で任務をこなせない。オズマの判断は癪だが、客観的な事実である。軍歴が長く、現実には驚くほどシビアなミハエルが、それを理解していない筈がない。ふん、と悔しそうに背中を向けるアルトに、ミハエルは苦笑を漏らす。アルトに深く立ち入らせたくない、と思う反面、二人で任務に当たれたら良いとも思う。呆れるくらいの二律背反。 「俺は本気だぜ?上がって来いよ」 負けず嫌いの恋人を煽るように声を掛けると、アルトは長い髪を靡かせて寝返りを打った。そして、疲労の色が濃い琥珀色の瞳に強い光を宿して、ニヤリと笑う。 「お前が出張してる間に、追い抜いてやるから覚悟してるんだな」 射抜くほどに強い眼差しに、ミハエルは頬を緩める。さすがにたった三日で追い抜かれることはないだろうが、それでもあっという間に次席に上り詰めたアルトの実力を思えば、うかうかしていられない。ミハエルは出張の準備を整えると、そうだ、と振り返る。 「張り切るのは良いけど、ロッカールームとかで寝たりするなよ」 先程までの茶化すような口調とは一転して、ミハエルの声は真剣その物。眼鏡越しのエメラルドグリーンの瞳にも、笑みはない。 「・・・・・別に誰も困らねぇだろ・・・・・」 確かにベンチを占拠する形になるので、誉められた行為ではない。唇を尖らせるアルトに、ミハエルは大きくため息を吐きながら頭を振った。 「あのなぁ、ボビー大尉に弄られるくらいなら良いだろうけど、本当に何かあってからじゃ遅いんだぞ」 本音を言えば、ボビーに弄られて大勢の目に触れるのすら願い下げだ。だが、ボビーに発見されて化粧やら女装やらされると言うことは、彼らがアルトに目に掛けてくれており、クォーター内で事件が起きるのを未然に防ごうとしている証拠でもあった。本当に、とミハエルは小さく微笑を漏らす。ここの大人たちは過保護である。 「・・・・・何かって、何だよ」 アルトは気だるそうに体を起こすと、ベッドの上に座り直した。結っていない黒髪が肩口から、サラサラと滑り落ちる。 「何って、いつも言ってるだろう?襲われたりしたら、どうするんだよ」 アルトがクォーターにおける戦友の一人であることは、誰もが重々承知している。だが、そのふとした仕草の色っぽさや、ふんわりと花が綻ぶような微笑みに衝撃を受ける隊員がいるのも事実だった。アルトがシャワー室に訪れると、そそくさと退散する連中も少なくない。 「っ・・・・そんなの、ミシェルだけだ!」 男である自分に欲情するような奇特な存在は、ミハエルぐらいだ、とアルトは思っていた。どんなうがった見方をすれば、自分が襲われるという考えに至るのか。 「ホント、自覚ねぇなぁ・・・・・」 ミハエルは頭を掻き毟った。例えアルトがどれ程否定しようとも、彼の体に馴染んでしまった女性を思わせる柔らかい所作が抜けることはない。それが、戦場に似つかわしくない美貌を伴えば、免疫のない者は簡単に惹き付けられる。密かにボビーが目を光らせるのは、当然の危機感だろう。ミハエルは腰に手を当てて、大きく息を吐き出した。 「姫はさ、俺を犯罪者にしたいの?」 「っ・・・・・何だよ急に・・・・・」 話の展開について行けず、アルトはうっかりいつもの言葉を返すことすらできなかった。ただ、真剣な表情を浮かべるミハエルを見上げることしかできない。 ミハエルはアルトの長い髪を指に絡めると、小さく口付ける。至近距離でアルトの琥珀色の瞳を見据えて、静かに口を開いた。 「もしアルトに何かあれば、俺は間違いなく犯人を殺す」 アルトを傷付けた輩を放っておける程、自分は寛大じゃない。元より、この体は血塗れなのだ。引き金を引くのが、命令か自分の意思かの違いしかない。 「・・・・・・ミシェル・・・・・」 アルトは思わず喘いだ。ミハエルの目は、本気だった。きっと躊躇うことすらしないだろう。 「まぁさすがに俺も、姉弟揃って軍法会議に掛けられた、なんて両親に顔向けできないことは、したくないんだけどね」 怯えるアルトに、ミハエルはニコリと笑顔で体を離した。しかし、ホッと息を吐き出すアルトに、ミハエルは釘を刺すことを忘れない。 「俺がお尋ね者にならないように、アルトも協力してくれるよね?」
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