W.I.M

  

 「それで、アルトはどうしたい?」

セクシャルな笑みを浮かべて迫るミハエルに、アルトは逃げるように一歩下がる。だが、既に背中は冷たい壁にべったりと押し付けていて、これ以上ミハエルから逃れることはできない。言葉を発することもできず、ただ浅い呼吸を繰り返すアルトに、ミハエルはそっと耳朶に唇を寄せた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

 シュミレーターに乗り込もうとするアルトの背中に、ミハエルは思い出したように声を掛ける。

「なぁ姫。今日はどうする?」

「・・・・姫じゃねぇ・・・・」

 お約束の言葉を返しながら、アルトは振り返った。

 どうするとは、毎度の賭けの内容についてだ。いつもだったら、次の休みの昼飯なりを奢るということで落ち着くのだが、アルトはふと考える。確か、シフトと学校の都合上、しばらく二人揃って外食に行く機会はない筈だ。う〜ん、とアルトは腕を組む。ここで、アルトが劇的な勝利を収めたとしても、うやむやになってしまう可能性がある。恐らく、ミハエルも同じ結論に達したのだろう。だからこその、どうする?である。しかし、昼飯以外となるとまったく思いつかない。それでも、必死に考える。うんうんと唸り首を傾げれば、高い位置で結った髪が、紅い組紐と共に揺れる。そうして、アルトは眉根を寄せたまま、口を開いた。

「そう言えば、自由課題のレポート出てたよなぁ?三日後提出のヤツ」

 結構な枚数を書かなければならない代物で、押し付け合うにはお誂え向きと言えるだろう。どうだ?と笑って見せるアルトに、ミハエルは頭を掻いた。

「それ、俺もう片付けちゃったんだよね」

 課題が出されると同時に手を付け始めたのだ。終わったのは、丁度昨日のこと。ミハエルは、困ったように眼鏡のブリッジを押し上げた。確かに、アルトが提案した以上の妙案はないように思える。ならば、それに代わる何かを、とミハエルが顎に指を掛ける。その時、ふと思いつく。

「じゃぁ、今日一日、負けた方は勝った方の言うこと聞くってのはどう?」

「・・・・・・・お前、自分が負けないと思ってるだろう・・・・」

 何をやらされるのか、とアルトは呻くようにミハエルを睨みつける。その表情が可愛らしくて、ミハエルは小さく噴き出した。

「何だ、姫はもう負ける気でいるのか?」

 楽しみだ、と嘯くミハエルにアルトは気色ばむ。

「うっせぇ!首洗って待ってろ!」

 ビシリ、とミハエルに指を突き付けて、アルトは怒り任せに黒髪を翻しながらコンフィに乗り込んだ。バタン、と音を立てて扉が閉まるのを見送って、ミハエルは肩を竦めながら隣のコンフィに体を滑り込ませた。