oh!my little knight

 

 

 

 

「んっ・・・ぅ・・・・」


 部屋に戻るなり、そのまま強く引き寄せられ、激しく唇を奪われた。抗うより早く唇を割って、熱い舌が口腔を犯す。


「っ・・・・んふっ・・・ぁ・・・・」


 ねっとりとアルトの心を溶かすように、ミハエルは濡れた舌をねっとりと甘く絡ませる。ザラリと擦り、舌先で輪郭をなぞれば、腕の中のアルトがヒクリと爆ぜた。ミハエルは眦を下げると、そのままタンクトップの中へと手を滑らせる。


「みっ・・・・やめろ、バカ!」


 ドン、と鋼のように逞しいミハエルの胸を力の限り押しのけて、アルトは乱暴に濡れた唇を手の甲で拭った。


「いきなり何すンだよ!」


 何の断りもなく、ましてや脈絡もなく、いきなり口付けをするなんて、一体何を考えているのか。眦を吊り上げ、顔を真っ赤にして怒鳴るアルトに、ミハエルは肩を聳やかせる。


「だって、俺明日から二週間出張なんだぞ。一秒でも長く、アルト充したい」


 ぎゅう、と力一杯抱き締め、そのまま肩口にグリグリと額を擦り付ける。まるで、甘えん坊の大型犬。アルトは、ミハエルの背中に腕を回すと、優しく撫でる。


「クラン大尉と、ゼントラーディが仕切ってるSMSの支部に視察だっけ?」


 他支部の視察は、決して珍しいことではない。オズマが他支部の人間を案内している姿を、何度も見たことがある。同様に、出張に行くから、と留守を任されることもあった。


「今回クランが適任ってのは理解できるけど、なんでも俺まで・・・」

 必要ないだろう、と唇を尖らせるミハエルに、アルトは肩を竦めた。ゼントラーディが大半を占めるという支部は、施設の造りもゼントラサイズで造られているらしく、ただの人間では視察に支障が出る。また、同じバックグラウンドを持つゼントラーディ同士の方が、細かなニュアンスも汲み取りやすいだろう、という判断だった。だが、と説明するオズマの苦々しい表情を思い出す。

「その外交技術が買われたんだろ?」

 同じ種族であれば、相互理解も早いに違いない。が、双方とも血の気の多い戦闘種族。何が切っ掛けで戦端が開かれるかわからない。そこで、緩衝役として人当たりの良いミハエルに白羽の矢がたったのだ。

「そんな物、売りに出した覚えないって」

 すっかり脹れっ面を浮かべたミハエルは、不満をぶちまける。

「しかも、二週間って何だよ・・・・」

 二週間の出張と行っても、フォールド断層の影響で移動に時間が掛かるだけで、実質滞在時間は一日だけ。さすがは、全銀河を股に駆ける大企業、と皮肉の一つも言いたくなる。

「移動は、会社が手配してくれたシャトルだっけ?」

 かつての豪華客船を彷彿とさせる、と言えば言い過ぎだろうか。それでも、利用者が長期の航行に耐えられるように、様々なイベントが催され、機内食もバラエティーに富んでいると聞く。自分で飛べないことへの不満もあるが、それでも仕事と思わなければ、ゆっくりと宇宙旅行を楽しめると言うもの。そうアルトが口にすれば、ミハエルは更に表情を曇らせる。

「・・・姫がいないなら、どんなに豪華でも意味がない」
「・・・っ・・・・」

 ミハエルの呟きに、アルトは声を詰まらせた。どうしてこの男は、息をするように甘い囁きを吐くのか。いや、とアルトは小さく溜息を漏らした。臆面もなく甘い言葉を口にするからこそ、数多の女性を虜にしてこられたのだ。アルトは唇の裏を噛むと、ポンとミハエルの背中を叩いた。

「いい加減、オレのこと姫って呼ぶのやめろよ」
「姫は姫だよ。俺にとってそれ以外の何者でもない」

 再び、グイグイ、と額を擦り付けてくるミハエルに、アルトは肩を竦めた。いつものミハエルならば、仕事は仕事と割り切る筈である。それが、ここまでイヤイヤと甘えてくるなど、一体、何が気に入らないと言うのか。

「どうしたんだよ、ミシェル。いつもはもっと、仕事に前向きだろう?」

 かつて、SMSに入隊しようとするアルトに、歌舞伎からの逃げに使うなと釘を刺す程、仕事には真剣なミハエル。それが、どうして。疑問を口にするアルトに、ミハエルは視線を彷徨わせる。まるでアルトの目から逃げるようなそれに、アルトは眦を吊り上げると、ミハエルの頬をパチンと両手で挟む。

「ミシェル?」


 どれだけミハエルが出張に行きたくない、と抗っても、ノーとは言えないSMS。出張に行かない、という選択肢はない。それでも、嫌々行って何かミスを犯すくらいなら、不満の全てを吐き出して、晴れやかな気持ちで仕事に臨むべきだ。アルトは真っ直ぐ、ミハエルの揺れるエメラルドグリーンの瞳を、覗き込む。その逸らすことを許さない、絶対の引力を持つ眼差しに、ミハエルは観念したように息を吐き出した。

「やっぱり、二週間って期間が嫌か?」

 アルトの問いに、ミハエルは何とも言えない複雑な表情を浮かべ、そして重たい口を開いた。

「・・・別に、二週間の長期出張が嫌なわけじゃない・・・」

 スナイパーは標的が現れる瞬間を、ただひたすらじっと待ち続けるのも、任務の内なのだ。拘束時間の長短を憂うことはない。ただ、とミハエルは肩を竦める。

「ただ?」

 反芻し首を傾げると、アルトの艶やかな黒髪が、サラリと肩口から流れ落ちる。ミハエルは、アルトの長い髪を指で梳くと、そのまま絡めて唇に運んだ。ちゅ、と小さな音と共に口付ければ、アルトは僅かに身を竦ませる。その可愛らしい反応に、ミハエルは強ばっていた頬を緩めた。

「ただ、さ・・・こんな風にアルトと二週間も触れ合えないのが、しんどい」

 同行者がクランであることにも、不満はない。勝手知ったる幼なじみだ。御し方だって、十分心得ている。仕事その物には、不安も不満もない。ただ、隣にアルトがいないこと、そしてその柔らかな肌に触れられない期間が、二週間という長期間であることが、想像以上にミハエルにストレスを与えていた。何しろ、声だけでも、と思ってもフォールド断層の影響で、音声通信ですらままならないのだ。そんな状況で、二週間我慢など、考えただけで目眩がする。

「・・・・う・・・・ぁ・・・・」

 ミハエルの言葉に、アルトは思わず呻き声を漏らしてしまった。確かに、何の断りもなく自分に引っ付いてきた時、アルト充がしたい、と冗談としか思えない答えを返してはきたが。よもや、心の底からの本音だったとは。困惑を隠せないアルトに、ミハエルは切なげに目を細めた。

「ねぇ、姫は?俺と二週間も離れ離れでも、寂しいとか思わない?」

 耳朶に唇を寄せて、甘く囁く。そのどこか哀愁を帯びた声音は、気付かないようにしていたアルトの心の底を、暴くように響いた。


「・・・お前、ズルイ・・・・」

 簡単に自分の強がりを剥ぎ取るミハエルに、アルトは小さく呟く。

「姫?」
「・・・一緒だよ・・・せっかく我慢してたのに・・・このバカ・・・」


 促すようなミハエルの声に、アルトは悔し紛れに、暴かれた心の内を吐き出した。そして、ミハエルの背中に自ら腕を回した。