|
oh!my little knight
|
|
「んっ・・・ぅ・・・・」
必要ないだろう、と唇を尖らせるミハエルに、アルトは肩を竦めた。ゼントラーディが大半を占めるという支部は、施設の造りもゼントラサイズで造られているらしく、ただの人間では視察に支障が出る。また、同じバックグラウンドを持つゼントラーディ同士の方が、細かなニュアンスも汲み取りやすいだろう、という判断だった。だが、と説明するオズマの苦々しい表情を思い出す。 「その外交技術が買われたんだろ?」 同じ種族であれば、相互理解も早いに違いない。が、双方とも血の気の多い戦闘種族。何が切っ掛けで戦端が開かれるかわからない。そこで、緩衝役として人当たりの良いミハエルに白羽の矢がたったのだ。 「そんな物、売りに出した覚えないって」 すっかり脹れっ面を浮かべたミハエルは、不満をぶちまける。 「しかも、二週間って何だよ・・・・」 二週間の出張と行っても、フォールド断層の影響で移動に時間が掛かるだけで、実質滞在時間は一日だけ。さすがは、全銀河を股に駆ける大企業、と皮肉の一つも言いたくなる。 「移動は、会社が手配してくれたシャトルだっけ?」 かつての豪華客船を彷彿とさせる、と言えば言い過ぎだろうか。それでも、利用者が長期の航行に耐えられるように、様々なイベントが催され、機内食もバラエティーに富んでいると聞く。自分で飛べないことへの不満もあるが、それでも仕事と思わなければ、ゆっくりと宇宙旅行を楽しめると言うもの。そうアルトが口にすれば、ミハエルは更に表情を曇らせる。 「・・・姫がいないなら、どんなに豪華でも意味がない」 ミハエルの呟きに、アルトは声を詰まらせた。どうしてこの男は、息をするように甘い囁きを吐くのか。いや、とアルトは小さく溜息を漏らした。臆面もなく甘い言葉を口にするからこそ、数多の女性を虜にしてこられたのだ。アルトは唇の裏を噛むと、ポンとミハエルの背中を叩いた。 「いい加減、オレのこと姫って呼ぶのやめろよ」 再び、グイグイ、と額を擦り付けてくるミハエルに、アルトは肩を竦めた。いつものミハエルならば、仕事は仕事と割り切る筈である。それが、ここまでイヤイヤと甘えてくるなど、一体、何が気に入らないと言うのか。 「どうしたんだよ、ミシェル。いつもはもっと、仕事に前向きだろう?」 かつて、SMSに入隊しようとするアルトに、歌舞伎からの逃げに使うなと釘を刺す程、仕事には真剣なミハエル。それが、どうして。疑問を口にするアルトに、ミハエルは視線を彷徨わせる。まるでアルトの目から逃げるようなそれに、アルトは眦を吊り上げると、ミハエルの頬をパチンと両手で挟む。 「ミシェル?」
「やっぱり、二週間って期間が嫌か?」 アルトの問いに、ミハエルは何とも言えない複雑な表情を浮かべ、そして重たい口を開いた。 「・・・別に、二週間の長期出張が嫌なわけじゃない・・・」 スナイパーは標的が現れる瞬間を、ただひたすらじっと待ち続けるのも、任務の内なのだ。拘束時間の長短を憂うことはない。ただ、とミハエルは肩を竦める。 「ただ?」 反芻し首を傾げると、アルトの艶やかな黒髪が、サラリと肩口から流れ落ちる。ミハエルは、アルトの長い髪を指で梳くと、そのまま絡めて唇に運んだ。ちゅ、と小さな音と共に口付ければ、アルトは僅かに身を竦ませる。その可愛らしい反応に、ミハエルは強ばっていた頬を緩めた。 「ただ、さ・・・こんな風にアルトと二週間も触れ合えないのが、しんどい」 同行者がクランであることにも、不満はない。勝手知ったる幼なじみだ。御し方だって、十分心得ている。仕事その物には、不安も不満もない。ただ、隣にアルトがいないこと、そしてその柔らかな肌に触れられない期間が、二週間という長期間であることが、想像以上にミハエルにストレスを与えていた。何しろ、声だけでも、と思ってもフォールド断層の影響で、音声通信ですらままならないのだ。そんな状況で、二週間我慢など、考えただけで目眩がする。 「・・・・う・・・・ぁ・・・・」 ミハエルの言葉に、アルトは思わず呻き声を漏らしてしまった。確かに、何の断りもなく自分に引っ付いてきた時、アルト充がしたい、と冗談としか思えない答えを返してはきたが。よもや、心の底からの本音だったとは。困惑を隠せないアルトに、ミハエルは切なげに目を細めた。 「ねぇ、姫は?俺と二週間も離れ離れでも、寂しいとか思わない?」 耳朶に唇を寄せて、甘く囁く。そのどこか哀愁を帯びた声音は、気付かないようにしていたアルトの心の底を、暴くように響いた。
簡単に自分の強がりを剥ぎ取るミハエルに、アルトは小さく呟く。 「姫?」
|