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KURENAI BEAT |
「なぁ、アルト・・・・・」 「あぁルカ。帰りに娘々に寄って行かないか?」 放課後、シェリルのライヴ用アクロ飛行の練習を終えたアルトは、パタンとロッカーの扉を閉めるルカに、ミハエルの言葉を遮って声を掛けた。アルトのあからさまな態度に戸惑いながら、ルカは振り返った。アルトの肩の向こうで、表情もなくこちらを見ているミハエルの姿に、寒くもないのに鳥肌が浮かぶ。 「・・・・・今日ですか?」 どうしたんだろう?と訝しみながら、ルカは口を開いた。確かに、アルトが転科してからS . M . Sに入隊してしばらくするまで、アルトとミハエルは寄ると触ると互いに反発しあっていた。それでも、近頃では言い争う声から険が消え、時には仲良さそうに肩を並べているシーンを良く見るようになっていたのに。この切り裂くような冷たい空気は、一体何があったと言うのか。しかも、アルトが露骨にミハエルを避けるなんて。初めて見る光景に、ルカは言いようのない不安を覚えた。 「あぁ、確か今日はナナセがシフトに入ってるって言ってたし・・・・・」 「紫イモ餡のゴマ団子が出るんでしたっけ?」 昼休みにナナセが話していたことを、ルカは思い出す。季節限定のスイーツメニューが出るのだ、という話題に、アルトが珍しく食いついていた。 「どんな物か気になるし、腹も減っただろう?」 艶やかな黒髪を高く結い上げながら、アルトはルカに笑い掛ける。ミハエルなら、きっと気付いただろう。アルトのその笑顔が、少し引きつっていることに。 「・・・・・えぇ、まぁ・・・」 ルカは言葉を濁した。確かに、シェリルの要求に応えるべく、高難度の技ばかりガンガン練習していたのだ。腹が減らないわけがない。だが、とルカは改めてミハエルを盗み見る。緊張を孕んだ空気を纏うミハエルを差し置いて、二つ返事でアルトと娘々に行ける程、ルカの腹は命知らずではなかった。 「っ・・・なら・・・・・」 さぁ行こう、今すぐ行こう、とルカの腕を引っ張りそうな勢いのアルトに、ルカは静かに首を振る。目の前で、シュンと肩を落とすアルトとその肩越しのミハエルを視界に映しながら、ルカは腕を組んだ。このまま、アルトに言われるまま二人で娘々に行けば、確実にミハエルの不興を買うだろう。ミハエルが、アルトに対して何かしらの用があることは、一目瞭然。そして、アルトが逃げたがっていることも。 ならば、とルカは考える。どのような行動を取れば、自分にとって一番快適な環境を得られるか。このギスギスした空気の中、アクロの練習をするのも、哨戒任務をこなすのも御免である。しかもそれが数日続くとか、想像するだけで悪夢だ。ならば、早々に解決して貰えば良いのだ。そう、何か問題があるのなら、腹を割って話し合うのが最良に決まっている。自分が立ち会えば、万が一殴り合いになっても仲裁に入ることができる。もっと言えば、娘々のような第三者のいる場所なら、そこまでヒートアップすることもないだろう。 そこまで考えて、ルカはこれ以上ない笑顔を閃かせた。 「えぇ、是非行きましょう」 沈んでいたアルトの表情が、花が咲くように明るくなる。その綻ぶような笑顔の美しさに、若干の罪悪感を覚えながら、ルカは言葉を続けた。 「ミシェル先輩と三人で」 その一言にミハエルは目を剥き、アルトの笑顔が凍りついた。だが、ルカは頓着することなく鞄を抱えると、天使を思わせる微笑みで固まって微動だにしない先輩たちを促した。 「さぁ行きましょう」 目指すは、憧れのナナセが働く娘々だ。ルカは振り返ることなく、足取り軽く更衣室を出て行くのだった。
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